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第30話・第2節「審問官たちの刃」

 王都セリオネ南区――かつて商人と移民たちが活気をつくっていた賑やかな一角は、いまや瓦礫と沈黙に包まれていた。


 教会鐘楼の警鐘が鳴り響いた直後、この一帯に突如として“影”が出現したのだ。


 「……っ、何だ……この空気……?」


 ジェイドが剣を抜き、周囲を見回す。風は止み、空気は重く、まるで時が凍ったかのようだった。人影のない通りに、妙な圧が満ちている。


 「いる……」


 ミュリナが微かに呟いた。彼女の指先がわななく。


 「視線を感じる。……だけど、見えない……っ」


 ルークスは静かに頷く。


 「来たか、“審問官”」


 その言葉に応じるように、瓦礫の陰から音もなく“それ”は姿を現した。


 黒い法衣。顔を隠す仮面。銀の鎖を編んだような細身の武器。彼らは四人。まるで影そのものが人型を成したような、禍々しい気配をまとっていた。


 「“異端の火種”、ルークス=イース。ならびに反教的立場にある随行者に告ぐ」


 一人の審問官が、機械のように抑揚のない声で宣告する。


 「神聖秩序を乱し、正義を貶める存在として、汝らを“聖炎の名”のもとに処断する」


 その瞬間、空気が爆ぜた。


 四人の審問官が同時に消える。


 「来るぞ――!」


 ルークスが叫ぶと同時に、右後方の空間が歪んだ。即座に反応し、剣を振る。刹那、金属と金属が火花を散らす音。


 「反応、早いな……」


 審問官の一人が舌打ちを漏らした。だがその声にも、怒気も憎悪も宿っていない。あるのは、ただの無機的な執行意思のみ。


 「セリナ、左!」


 「分かってるっ!」


 ルークスの指示を受け、セリナが魔法剣で横薙ぎに斬る。刃が虚空を切り裂き、不可視の敵影を捉えた。


 「当たった……いや、薄い……!」


 審問官の身は、明らかにこの世界の物理法則から半歩ずれた位置に存在している。彼らは“教会の禁術”によって、影と実体の狭間に存在する者たちだった。


 「ならば――」


 ルークスは神滅因子を解放する。彼の身体を赫い輝きが包み、聖印が変化する。


 「“顕現”――《虚無喰らい(ヴォイドイーター)》!」


 瞬間、周囲の空間が歪み、四方に存在していた審問官たちの一人が、その輝きに巻き込まれる。


 「この力……まさか……神滅因子が……!」


 動揺の声が漏れる。続けて、ミュリナが唱えた。


 「《癒しの光矢・連結式》……! 今のうちにっ!」


 矢が放たれ、味方に命中すると同時に、回復と結界効果をもたらす。彼女の魔法は単なる治癒に留まらず、戦術の要として成長していた。


 「足止めはできてる! ジェイド、右側を――!」


 「任せろ!」


 ジェイドが戦斧を一閃し、宙にいた審問官を地面に叩き落とす。


 だが、落ちたはずの敵の体が、液状に崩れて再構成される。


 「ッ……化け物かよ!」


 「彼らは“人”として訓練された後、魂そのものを契約化されてる。“聖務機関”の奥底で生み出された、最も古く最も危険な――」


 “囁かれし者”が声を震わせる。


 「つまり、“教会の神罰そのもの”……!」


 その言葉の最中、審問官の一人がルークスの背後に出現し、ナイフを突き立てる。


 だが、刃が貫いたのは“残像”だった。


 「……遅いな」


 ルークスが背後から現れ、斬り上げる。赫刃が仮面を真っ二つに裂き、審問官の一人が崩れ落ちた。


 「残り三人……!」


 ミュリナの魔力は限界に近づきつつあった。セリナも傷を負い、ジェイドは息を荒げている。


 だが、ルークスはまだ剣を下ろさない。


 「俺たちがここで負ければ、“真実”はまた闇に葬られる……!」


 彼の叫びが空に響く。


 すると――遠くから響く、鐘の音。


 それは、中央広場からの合図。


 「……“始まり”の鐘だ」


 セリナが呟く。


 「この街が変わる、その合図だよ、ルークス」


 ルークスは頷き、再び剣を握り直した。


 「行くぞ、終わらせよう。この偽りの“神の影”を!」


 仲間たちがうなずき、最後の審問官たちとの死闘へと挑んでいく。


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