第29話・第4節「神滅の継承」
雷鳴が天蓋室に轟き、神滅の剣と赫焔の双剣が交錯するたび、世界が悲鳴を上げた。
ルークスとルシファ=ルークス――
二人の剣が交わるたびに空間は揺らぎ、現実と幻、過去と未来、因果と自由が入り混じる。
「なぜ……まだ立てる!?」
ルシファの赫刃がルークスの肩を裂き、血飛沫が聖紋を染める。だが、ルークスの瞳は決して折れない。
「理由なんか……要らねぇだろ」
彼は、そう呟きながら一歩、また一歩と前へ進む。
「お前の“正義”がどれだけ強くても、俺には“守りたい奴ら”がいる。そのためなら、地を這ってでも、運命に抗ってでも、剣を振るう!」
再び、衝突。剣と剣の軌跡が交差し、火花が星のように弾ける。
天蓋室の天井が砕け、上空から神性機関の中心核が露出する。蒼く輝く“創生の球体”――世界の“調律”を担う装置。すでに暴走の兆候を見せていた。
「これ以上、この空間は持たない……!」
セリナが叫ぶ。
だが、ルークスもルシファも止まらない。
「君にはわからない。僕が、何を失ってきたか……!」
ルシファの剣に、悲痛な叫びが宿る。
「人を守りたかった。なのに、僕が剣を握るたびに……仲間が、民が、壊れていった。だから……この世界に、完全な“秩序”を与えなければならなかったんだ!」
「だったら……!」
ルークスは大地を蹴る。
「そんなもん、神にでもやらせとけ! お前が全部背負い込んで、“誰も信じねぇ世界”にしてどうする!」
剣が唸りを上げ、赫刃の中心を撃ち抜いた。
「うあああああっ!」
ルシファの叫びとともに、双剣が激突する。
空間が白く染まり、視界を覆う閃光の中で、全ての魔力が静止した――
……沈黙。
しばしの後、瓦礫の中からルークスが立ち上がる。肩は深く裂け、片膝をつきながらも、なお剣を手放していなかった。
「……終わったのか……?」
蒼い光が辺りを満たす。倒れたルシファの身体から、神滅因子の奔流がルークスへと流れ込んでいた。
「これは……?」
ミュリナが声を漏らす。
「因子の……“継承”だ」
ジェイドが呻くように言う。
「ルシファが敗北を認めた……いや、“選んだ”んだ。次を託す相手として、ルークスを……!」
ルシファは血に濡れた唇で、わずかに笑った。
「……君になら……託せる。“神滅の未来”を……」
その瞬間、彼の身体は光に包まれ、神性因子の残滓だけを残して消えた。
ルークスの胸元、神滅の刻印が蒼から赫へと変化する。
それは、二つの因子の融合――“完全な神滅因子”の誕生を意味していた。
「これが……“継承”……!」
天蓋室の奥、蒼の球体が沈黙を取り戻す。暴走していた神性機関の回路が静かに停止し、王都全域に流れていた歪んだ力も霧散していった。
「やった……!」
セリナが呟く。
「でも……本当に、これで終わったの……?」
ミュリナが不安げに問う。
ルークスは剣を背に収め、ゆっくりと振り返る。
「いや、ここが“始まり”だ。まだ、表の教会、王権、魔族、そして――“神”が残ってる」
仲間たちは、言葉もなく彼を見つめた。
だがその視線の中に、確かに“希望”があった。
「行こう。俺たちの旅は、まだ終わっちゃいない」
天蓋室の扉が軋みながら開かれ、光が差し込んでくる。
その光の中、ルークスたちは歩みを進めた。
“神を斬る者”として――