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第29話・第2節「大聖女ユリエルとの対峙」

蒼白の結界が空間全体を満たしていた。


 “神性機関”を守護するために姿を現した大聖女ユリエル。その背に浮かぶ十二の光輪は、見る者に畏怖を抱かせる神性そのものだった。魔力という言葉では到底表現できない圧力が、空間をねじ曲げ、地に膝をつかせようとする。


 だが、ルークスはその中にあっても微動だにしない。


 「……あなたが“大聖女”か。確かに、ただの人間じゃないな」


 ユリエルの表情に揺れはない。その瞳は澄み切っていて、清廉にすら思える。


 「あなたは、禁域を踏み越え、神性機関に干渉しようとした。“教義に背きし者”……異端として裁かれます」


 「異端……か」


 ルークスは小さく嘲笑を漏らした。


 「じゃあ問う。“始源の聖典”に記された“神の教え”は、今の教会が掲げる“選別と支配”と同じだったか?」


 ユリエルの瞳がわずかに揺れる。


 「……それでもなお、私は守る。この機関は、王都を、民を、生を維持するための最後の砦。滅ぼせば、混乱と絶望が訪れる」


 「知ってる。けどな、“嘘”の上に築かれた安定なんて、いずれ崩れる。それが早いか遅いかの違いだ」


 ルークスは神滅の剣を抜いた。


 静かな、けれど確かな殺意を孕んだ空気が満ちる。


 「……ならば問います」


 ユリエルは一歩前へ出ると、両手を胸の前に組んだ。瞬間、周囲の空間が再構築される。天井に輝く星図が回転を始め、彼女の足元に金色の大陣が展開される。


 「“正義”とは、誰のためにあるべきですか?」


 その問いは、まるで審判のように響いた。


 「正義は、守るべきもののためにある。だが――それを誰かが“定義”した時点で、それはただの“都合”だ」


 ルークスの言葉にユリエルが眉をひそめた。


 「だからこそ、俺は戦う。自分の目で見て、耳で聞いて、信じたもののために。……誰かの定義じゃない、“自分の意思”でな!」


 その瞬間、ユリエルの背後に浮かんでいた十二の光輪が、槍状に変化した。


 「――神の裁定、開廷します」


 光の槍が、音もなくルークスへと放たれた。空間を切り裂くその光は、物理的な障壁すら貫通する“絶対貫穿”。


 ルークスは前へ一歩踏み出し、その剣を振るった。


 激突。


 空間が爆ぜ、衝撃波が結界の内側を撫でるように駆け抜けた。


 「速い……っ!」


 ジェイドが反応する暇もなく、二人の攻防はすでに数十合を超えていた。


 ユリエルの動きは洗練され、正確無比。神性機関と完全に同期しているその肉体は、まるで“自動裁定装置”のような精密さと迅速さを持っていた。


 それに対し、ルークスは“自由”そのものだった。


 型に囚われず、経験と直感を織り交ぜた戦法。神滅の剣が“概念”をも斬り裂き、ユリエルの加護を一つ一つ無力化していく。


 「……この男、私の“神性防壁”を……解析してる……!?」


 内心の驚愕を押し殺しながら、ユリエルは距離を取った。


 「ならば、最終命令を発動します。“原初の審断”――!」


 天空の星図が急激に明滅し、巨大な剣の幻影が頭上に形成される。


 「それは……! 星霊の審判だと!?」


 セリナが叫ぶ。


 「この空間にいるすべての存在を“有か無”で審査し、価値がないと判断された者は、“抹消”される。まさか……!」


 「やられる前に――斬る!」


 ルークスは剣を掲げ、神滅の第二解放を上回る力を解放した。


 黒い雷光が背後に走り、時間が歪むほどの重圧が生じる。


 「――“零式:断罪の黎明”!」


 空間が蒼白に輝き、剣が光の奔流となって降り注いだ。


 ユリエルの剣と交差し、膨大なエネルギーが空間の中心で炸裂した。


 そして――すべてが、止まった。


 静寂。


 光が収まり、結界の内にいた仲間たちがようやく動けるようになる。


 「……ルークス!」


 ミュリナの声に、剣を地に突き立てた彼が振り返る。


 その前に立つユリエルの法衣は破れ、彼女自身も膝をついていた。


 「……私の敗北です」


 「……これで、終わりだな」


 ルークスがそう言った瞬間、ユリエルは首を横に振った。


 「いいえ……まだです。“神性機関”を止めるには、“王印”が必要。その場所は、最上層――“天蓋室”にあります」


 ルークスの視線が上を向いた。


 「そこに、誰がいる?」


 「王家直系の血を引く者、そして……“もう一人のあなた”がいます」


 衝撃が走った。


 「もう一人の……?」


 大聖女ユリエルは、静かに告げる。


 「彼の名は“ルシファ=ルークス”。あなたと同じ神滅因子を持つ存在。“双極の剣”のもう一つの担い手です」


 ルークスの中で、何かが軋んだ。


 ――物語は、新たな核心へと向かおうとしていた。


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