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第29話・第1節「王都の深奥と“神性機関”」

黒殻街の地下神殿を突破したルークスたちは、古代魔術で封じられていた通路を抜け、ついに王都中心部――“真聖堂”の地下区画へと到達していた。


 そこは、王族と上位聖職者しか足を踏み入れることを許されない“神性機関”の中枢に接続する、禁域中の禁域だった。


 「空気が違う……これはただの魔力じゃない。もっと濃く、重い……」


 ミュリナが息を呑む。


 空間全体が、まるで神経のように脈動していた。床は光を帯びた蒼白の魔導回路で描かれ、天井には星図のような“神代封印文”が常に浮遊している。


 「これが……王都の“深奥”か」


 ルークスの声も低くなった。


 この場所は、王国が持つ最大の“力”の根源――“神性機関シン・エンジン”のコアへと続く道。その存在は、王国中でもごく一部の者にしか知らされていない。


 「……見て」


 セリナが指差す先にあったのは、巨大な柱に囲まれた祭壇。中央に浮かぶのは、黒い結晶で構成された球体だった。


 「まるで、心臓みたいだわ……」


 それは脈動し、微かな呻きのような音を発していた。人の声にも似たその響きに、誰もが言葉を失った。


 「これは……人間の魂を媒体に稼働している“神性炉”。神の力を模した、教会最大の禁忌よ」


 “囁かれし者”の声は沈痛だった。


 「かつて、魔族との大戦の中で開発されたこの“機関”は、本来の神への信仰を捨て、人工的に“神力”を再現するための装置……」


 ルークスは眉をひそめる。


 「つまり、王都を維持している神聖結界は……これで成り立っている?」


 「正確には、これが生み出す“疑似神性エネルギー”によって、結界だけでなく、聖印制度や階級構造、さらには“民意”すらも操作されている。……知らぬ間に、王国全体が“神の意志”ではなく、“機関の演算”で統制されているの」


 場が凍りついた。


 これまで彼らが対峙してきた教会の腐敗は、ただの“人間の悪”ではなく、“構造そのもの”の問題であることを示していた。


 「だったら――破壊するしかないな」


 ジェイドが低く呟いた。


 「これがある限り、誰が上に立とうが意味がない。仕組みごと叩き潰すしか、根本から変えられねぇ」


 「……だが、それは王都全体の魔力系統を断つことを意味する」


 セリナが硬い声で言った。


 「生活インフラ、治癒院、魔導水路、さらには王族の命を繋ぐ機構まで……これに依存してる。破壊すれば、一時的とはいえ、混乱は免れない」


 「それでも」


 ミュリナが小さく呟く。


 「このままでは、“本物の信仰”は永遠に戻ってこない。誰かが、偽りの神性を断ち切らないと……」


 ルークスは黙って、その黒い球体に視線を据えた。


 そして、ゆっくりと剣を抜いた。


 「この剣は、“神を滅ぼす”と謳われてきた。なら――こういう時に振るうしかないだろう」


 神滅の剣が蒼く輝き、空間に亀裂が走る。


 だが、その瞬間――


 「お止めなさい、“異端の英雄”よ」


 空間が揺れ、天井の魔導星図が乱れた。


 現れたのは、白銀の法衣に身を包んだ女性。その背には十二の羽衣のような魔力の光環が展開され、足元には聖なる文様が自動で描かれていく。


 「貴女は……」


 セリナが目を見開いた。


 「“大聖女”ユリエル……!」


 その名は、教会における最高権威にして、神性機関の唯一の“操者”。


 「貴方たちの意志は理解します。しかし、“この場所”に手を出すことは――王国と民を同時に滅ぼす行為。たとえそれが真実であっても、正義にはなりえない」


 その声音は凛とし、神々しさすら帯びていた。


 だが、ルークスは一歩も退かない。


 「滅びを恐れて、腐敗を放置するなら、それこそ“神”の名を騙るだけの欺瞞だ」


 静かに、だがはっきりと返す。


 「……それでもなお、俺は――この剣で道を開く」


 ユリエルの瞳に、わずかな光の揺らぎが走った。


 「ならば――試練を受けなさい。“神性機関”を守る最後の守護者として、私はあなたを“裁く”」


 空間が一変し、神性炉の周囲が光の結界に包まれる。


 いよいよ、王都の核心にして最大の障壁が立ちはだかる。


 そして、すべてを変えるための“決戦”の幕が、静かに上がろうとしていた。

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