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第28話・第3節「聖都脱出と“焔の審問官”」

 地下神殿の封印扉を越えた先は、漆黒の石で覆われた細くうねる通路だった。


 「こんな通路が……王都の真下に……」


 セリナの声が震える。


 それもそのはずだった。この通路は千年以上前、王都建設以前から存在していた“古代神代都市”の名残。封印された知識と技術、忘れられた神々の遺跡が眠る地下網が広がっているという。


 「空気が……変わったわね。魔力の流れも不自然にねじれてる」


 ミュリナが呟くように言う。


 「この通路は“外部転送障壁”に守られてる。敵の転移術は使えない。だが……」


 “囁かれし者”がそこで言葉を切る。


 「地上側には……もう、待ち伏せされているかもしれない」


 「……時間との勝負ってわけか」


 ルークスは深く頷き、手にした神滅の剣の柄を握り直した。


 全身に疼痛が走る。神滅の反動は既に骨髄まで達していたが、それでも立ち止まるわけにはいかない。


 「急ごう。こっちだ」


 囁かれし者の導きで、一行は無数に枝分かれした通路を縫うように進んでいく。途中には崩れた橋、落下した石碑、警告の碑文が幾つもあったが、誰一人として足を止めなかった。


 ――やがて。


 地上へ通じる階段の先に、赤く光る“魔印障壁”が見えた。


 「これは……」


 ミュリナが眉をひそめる。「上層の結界と、違う……炎属性の強い封印式?」


 「“焔紋封界”か……!」


 セリナが息を呑む。


 それは王国でも限られた者しか使えない“焼却結界”。突破者を内部から焼き尽くす自動反応式の対侵入結界――つまり、この先に“あの男”がいるということだ。


 「来たか……“焔の審問官”」


 ジェイドが唾を飲む。


 その名は、王都でも最も忌避される存在の一つ。異端追放の最終権限を持ち、必要とあらば王族すら処刑対象とする、聖堂直属の“焔印特務執行官”――その筆頭が、“焔の審問官フラム・アジャイル”だった。


 「足音が聞こえる……一人だな」


 ルークスが剣を振るうと、結界が震え、ゆっくりと焼けただれながら開いた。


 そしてそこに立っていたのは――


 「……ようこそ、神々の墓所へ。異端の導き手たちよ」


 緋色の外套を纏い、焔のような長髪を揺らす男だった。


 漆黒と朱の二色で構成された法衣は、まるで生きているように揺れ、彼の周囲に常時炎の紋章を描き続けている。右手には儀礼用の“灼光の審槌しんつい”。左目には焼印が刻まれていた。


 「……これが、“焔の審問官”……」


 セリナが震える声で言った。


 「フラム・アジャイル。かつて、魔族の王子すら一太刀で灰にしたと言われる処刑官……」


 「俺は、教義を問わない。ただ、命じられた“存在”を“無”に還すだけだ」


 静かに告げられたその声には、冷たい炎のような威圧があった。


 「君たちが何を見て、何を知ったかは関係ない。君たちは……“記録されるべきではなかった”存在。だから、ここで消えてもらう」


 そして、彼の足元に魔方陣が展開される。


 「気をつけろ! あいつの魔法は“火”じゃねぇ、“記憶の焔”だ!」


 ジェイドが叫んだ瞬間、空間がねじれ、炎が無数の記憶の断片と共にルークスたちを襲った。


 「……この光景……!」


 ミュリナの瞳に、かつて焼かれた奴隷収容所の情景が浮かんだ。

 セリナは、聖堂で拷問を受けた少女時代の“あの日”に引き戻されていた。


 「これが……“精神焼却”……!」


 フラムは言う。


 「火は肉体を焼くだけではない。“過去”を燃やす。“希望”を燃やす。“信念”をも、灰に帰す」


 しかし――


 「……なら、それを斬ればいいだけだ」


 ルークスが前に出た。


 彼の目に宿っていたのは、迷いなき炎。

 燃やされた“過去”を超えてきた者の、揺るがぬ意志。


 「お前の焔が記憶を焼くなら――俺の刃は“未来”を断たせはしない!」


 神滅の剣が閃き、燃え盛る幻影を裂く。


 その一撃は、フラムすらも驚嘆させる鮮烈な斬撃だった。


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