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第28話・第1節「暴かれた真実と新たなる追撃」

 “真理の碑文”を写し取った記録魔石を手に、ミュリナたちは封印の間から脱出を開始していた。


 だがその背後では、未だ光の余韻が残る空間に、崩れ落ちたクロイツ・レヴィンの姿があった。彼の肉体は魔印の暴走により半ば崩壊していたが、最期までその目には“選別の正義”が宿っていた。


 「あなたもまた……哀れな犠牲者だったのですね……」


 ミュリナが立ち止まり、そう呟いた。


 だが時間はなかった。

 “神殿中枢の魔力圧縮”――先の戦闘と封印解除による反応が、周囲に異常な波動を放っていた。


 「急げ、崩れるぞ!」


 ジェイドの怒声と共に、仲間たちは崩壊しかけた礼拝通路を駆け抜ける。古代魔法の残滓が天井を突き破り、魔導灯の光が軋んだ音を立てて瞬いていた。


 ルークスは最後尾で仲間の退路を確保しながら、背後に意識を向ける。


 ――だが、その瞬間。音もなく、空間の一部が“切り取られた”。


 「……転移か!?」


 ルークスが身構える。


 黒い法衣を纏った人物が、封印の部屋の残響の中から現れた。長身痩躯。顔は覆面で隠されていたが、空気そのものが凍りつくような威圧感を放っていた。


 「……“十三階主トリスデカ・ドミナ”の一人か……!」


 囁かれし者が歯噛みする。


 “十三階主”――それは中央教会の闇を統べる秘匿階級。表向きには存在しないとされる、異端監視と抹殺を司る“神秘管理機関”の実働者たち。


 「影が動いたか……いや、“真実”が目覚めたのだな」


 低く響く声。


 男は静かに手を掲げると、彼の背後に“虚空の門”が開いた。そこから現れたのは、漆黒の魔導兵――教会が魔族との戦争で培った“禁断の技術”による自律兵士だった。


 「……これは、もはや情報隠蔽ではない。完全な制圧だ」


 ルークスが構えを取る。


 「お前たちは、“教義の外”を知り過ぎた。今ここで、“存在ごと”削除させてもらう」


 その瞬間、魔導兵が一斉に魔力砲を構えた。

 だが、次の瞬間。


 「ならば――こちらも“全力”で応えよう」


 ルークスが自身の右腕に宿る“神滅の紋章”を解放した。空気が震える。神殿全体がその力に反応し、地下の封印陣が共鳴を始める。


 「ルークス、危険です! その魔力……!」


 ミュリナが叫ぶが、彼は首を横に振る。


 「もう“抑える”段階は終わった。これは俺自身の意志だ。“選ばれた”んじゃない、“選んだ”んだよ。俺が、この世界で何を為すべきかを」


 神滅の剣が空間に顕現する。その剣は、かつて神と魔王を斬り裂いたとされる、伝説に記された“破壊の権化”――だが今、その輝きは“守る意志”として形を成していた。


 「ジェイド、セリナ、ミュリナ。三分でこの場を離脱しろ。俺が足止めをする」


 「……またそれかよ」

 ジェイドが顔を歪める。「ったく、言っただろ。もうお前を一人にするのはごめんだって」


 「その通りです。ルークス、今のあなたには、もう“独りで戦う理由”なんてないはずです」


 ミュリナが彼の腕に手を重ねた。


 ――その手の温もりが、胸に沁みた。


 彼は短く頷き、静かに言った。


 「じゃあ……一緒に、切り拓こう。嘘で塗り固められたこの世界を――本物に変えるために」


 次の瞬間、神滅の剣が轟きと共に放たれた。


 虚空の門を斬り裂く斬撃。聖なる空間を焼き尽くす力が、教会の闇の象徴“十三階主”の影を照らす。


 戦いは、まだ終わらない。

 だが確かに、運命は動き出していた。

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