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第27話・第3節「封印解放と揺らぐ聖都」

聖槍が唸りを上げる。


 クロイツ・レヴィンの一撃は、信仰と狂気が織り交ざった凶刃そのものだった。彼は神の名を口にしながら、冷酷に命を刈り取る機械のようにルークスたちを追い詰めていく。


 「“異端”は、許されない……神の言葉は絶対。赦しはない」


 その目に映るのはただ命令と執行のみ。だが、彼の背後には教会が隠した“歪んだ真実”がある。聖女を焚殺し、教義をねじ曲げた過去。ルークスは絶対に退けなかった。


 「ミュリナ、あとどれくらいだ!」


 「……もう少し!あと、あと一節、詠唱が終われば!」


 光る魔法陣はあと一重、最深層の封印を解くだけだ。しかしその間にも、クロイツの攻撃は苛烈さを増す。聖光の槍が空間を引き裂き、石壁すら融解させていく。


 「こいつ……完全に“祝福受けた者”の限界を超えてやがる」


 ジェイドが歯噛みした。


 “選別者”は、もはや人間ではない。教会が神託と称して行う魔印融合は、魂に直接神性情報を書き込み、肉体と精神を改造する行為。クロイツはその最終段階まで進行した者だった。


 「神により選ばれし我が身をもって、貴様らを清めよう……」


 その呪言と共に、大地を貫く光の柱が上がった。


 「……くっ、これは……!」


 ルークスはとっさに“重層結界”を展開。自身を中心に味方全員を包むように力場を拡張する。空間が歪み、空気が震える。聖なる熱気が波のように押し寄せ、彼の魔力を削っていく。


 「持たせろ……絶対に、ここで折れちゃいけない」


 その時だった。封印扉に浮かび上がっていた聖印が砕け、六重封印の最後の環が解かれた。


 「――開いた……!」


 ミュリナが叫ぶ。封印扉が低い振動音と共に開き始めた。その奥には、古代語で刻まれた“真実の碑文”と、王都を中枢から統制するための“魔力演算核”が露出していた。


 「ルークス!」

 セリナが叫ぶ。「あれが……教会が隠していた、“真理の核”!」


 それは、人の意志では絶対に触れることのできない神性構造体。だが今、聖典が反応し、ミュリナの魔力がそれと同調していた。


 「これが……神が本当に人に託したもの……」


 彼女の瞳が潤む。

 そこには支配も区別もなかった。魔族も人間も区別せず、生命すべてを同等に扱う真なる祝福が記されていたのだ。


 「このまま公開できれば、王都の教義は……ひっくり返せる」


 だがその時――


 「させるかぁあッ!」


 クロイツが自らの肉体に封印されていた“裁きの印章”を解放した。全身に光が奔り、彼の輪郭が崩れ始める。


 「こいつ、自壊覚悟で魔印暴走を……!」


 「お前たちに、“真実”など渡さない……この聖都は、神の名の下に清浄でなければならぬのだ……!」


 歪んだ正義。暴走する信仰。だが、それすらも“選ばされた”結果なのだと、ルークスは理解していた。


 「ミュリナ、今すぐ碑文の記録を持ち出せ!セリナ、ジェイド、こいつは俺が止める!」


 「そんな――!」


 「早く行け!」


 仲間たちが走り出す。ミュリナは聖典を核にかざし、魔法陣に“真実の碑文”を記録させる。全魔力を注ぎ込みながら、歯を食いしばった。


 「お願い……!」


 光が収束する。

 一瞬、すべてが静止したかのような沈黙。次の瞬間、爆発的な魔力の奔流がルークスとクロイツを包み込んだ。


 「……お前の正義は、もう古いんだよ」


 ルークスが呟いたその瞬間、彼の右手が光に包まれた。“神滅の剣”が顕現する。あの日、森の廃墟で目覚めたとき、共に現れたその力が今、最大限に解放された。


 「裁きってのはな、まず自分に向けるもんだろ」


 剣閃が走る。

 そして、クロイツの影が砕けた――。


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