第24話・第2節「記録核への到達と真実の映像」
回廊の奥へと誘われたルークスの意識は、現実と記録の境界を揺蕩うように進んでいた。
気づけば、彼は巨大なホールに立っていた。空間の中心には、直径数メートルの球体――それが“記録核”だった。淡い青白い光を放つその核の中には、無数の光の粒子が渦巻き、まるで星々の記憶が閉じ込められているかのようだった。
「ここが……記録核……」
歩み寄ろうとすると、空間が揺れた。光の粒子が一斉に放射され、ホール全体を包む。
「ルークス!」
ミュリナの声が、背後から届いた。彼女とセリナ、ジェイドも遅れてホールへ到達していた。
「無事か?」
「ああ……だが、これは……」
ルークスが言葉を探していると、記録核から一本の光が伸び、彼の額へと接続された。
瞬間、脳裏に“映像”が流れ込んでくる。
それは――遠い昔の光景。
魔王と呼ばれる存在が、まだ人だった頃の姿。
人間たちの迫害、村の焼き討ち、家族の喪失――復讐に染まってゆく青年の姿が、映し出される。
「これが……」
「記録核の“真実”……過去の記録だよ」
セリナが低くつぶやいた。
「彼は、もともとは“光の守護者”として生まれた存在だった。だが、記録の中で歪められ、今や……魔王と呼ばれるようになった」
ミュリナは唇をかみしめる。
「こんなの……どうすればいいの……。こんな過去、どうやって受け止めれば……」
だがルークスは、静かに記録核から意識を引き戻し、ひとつ息を吐いた。
「……だからこそ、止めるしかないんだ。正しい記録を、正しい未来へつなげるために」
次の瞬間、記録核が激しく明滅し始めた。
「ルークス、危ない!」
ジェイドが叫ぶと同時に、核の周囲に裂け目が生じる。記録空間そのものが、崩壊の兆候を見せ始めていた。
「もう時間がない! 急いで“核”を固定しなければ、ここが飲まれる!」
セリナの指示に応じ、ルークスは自らの魔力を核へと流し込む。魔力が光へと変わり、記録核の表層を覆っていく。
「固定率、上昇中……あと十秒……!」
「お願い、ルークス……!」
ミュリナの声に応えるように、ルークスの手から眩い光が迸った。
その瞬間、空間全体が収縮し、記録核が安定を取り戻す。
「……やった……」
セリナが倒れ込むようにして、その場に座り込んだ。
しかしその安堵も束の間――ルークスの頭上に、再び影が差す。
記録の空間、その最深部から――“かつての魔王”の姿を模した、巨大な幻像が出現したのだ。
「これが……最後の試練……!」
ルークスは剣を構え、静かに構える。
その目に、迷いはなかった。