第21話・第1節「遺構中枢・封印の門」
峡谷の戦いが収束した直後。
魔導遺構の中枢へと通じる巨大な扉が、深い沈黙のなかに立っていた。
それは岩盤と融合したような“半有機構造体”であり、表面にはかすかに光る魔術文字列が走っていた。
「……これが、“遺構の心臓”」
セリナが小さく呟く。
その瞳には、過去と未来の両方を映す不安と決意が宿っていた。
「魔力の層が濃い。“個人の意志”だけじゃ起動しないように設定されてるな」
ルークスが、手をかざしながらつぶやく。
彼の魔力が触れた瞬間、扉の中央に光の文様が浮かび上がった。
《継承試練に入るには、四者の意思が必要です。目的の共有を確認しますか?》
「四者……」
「つまり、“敵”も必要ってことか」
声を上げたのは、断章商会代表──カエルス・ジークルーンだった。
「“敵”ではなく、“意志を持つ者”だろう」
その言葉と共に、王国教会の白装束を纏った神官長補佐・マレリオが歩み出る。
続いて、学術ギルドの考古術士・リセルも頷く。
「“知識を記録する者”として、この中に何があるか確かめたい。そのためなら一時的に同調してもいい」
四者が揃った瞬間、遺構の扉が再び輝き出す。
《以下の問いに、各者が回答してください──「あなたが、この場所に入る理由は何ですか」》
沈黙のなか、最初に答えたのはマレリオだった。
「我ら教会の使命は、“力の制御と封印”にあります。過去の過ちを繰り返さぬために、真実の記録を手に入れる」
次に、カエルスが続く。
「断章商会は、“人が持つ可能性”を選び取る組織だ。造られた力が正しく使われる可能性を、俺自身で見届けたい」
リセルがやや間を置いて口を開く。
「ギルドは、“世界の記録”そのものに価値を見出す。“誰が使うか”ではなく、“何が記されたか”が重要だと考えている」
そして、ルークスが一歩前に出る。
「俺は、“選ぶために”ここに来た。力を手に入れることでも、封じることでもない。“選択肢を持てる未来”を作るために、記録に触れる」
その答えに、扉の魔術文字が柔らかく光を返した。
《意思照合完了。中枢空間への接続を開始します──》
地鳴りと共に、岩盤がスライドし始める。
ミュリナがルークスの隣に並び、小さく問う。
「……本当に大丈夫? 向こうにあるのは、“ただの記録”じゃない気がする」
「だからこそ、行く意味がある。“未来に触れる”覚悟を持ってるのは、俺たちだけじゃない。──彼らも、同じように迷ってる」
扉の奥から、淡い光が差し込んだ。
“記録の間”へと続く、滑らかな石階段。
その先にあるのは──世界の記憶。
過去を刻んだ者たちの意志と、いま選ぼうとする者たちの対話の場所。
「行こう。“問いを投げかけられる側”から、“答えを示す側”へ」
四者は、並び立ってその扉をくぐった。