表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/175

第19話・第3節「目覚める監視者と試練」

都市中枢の奥部──

 球状空間のさらに深層に存在する“管理層”へと続く螺旋の階段を下りたとき、空間の気配が一変した。


 それは、知性ある者が発する“静かな威圧”だった。


 「……来たか、“現在の歩行者たち”」


 その声は、頭の内に直接響いた。

 壁も天井も存在しない虚無空間の中央に、“意志を宿した球体”が浮かんでいた。


 《名称:監視者ナビゲイター・コア

 《目的:記録の選別、継承者への適応判定、文明の再起動》


 「自己の認識、照合中──“ルークス”。構造コード、承認。だが“個”では不十分。次は、“集団意志”の強度を確認する」


 「……集団意志?」


 「“意志を共有し、支え合えるか”。それこそが、“力ではなく文明”を再起動する鍵。君たちが、ただの“力の結晶”ではないと証明しろ」


 その瞬間、空間がねじれた。


 全員が別々の幻視空間へと“引き裂かれる”。


 ミュリナが目を開けると、そこには誰もいなかった。

 暗闇の中で、彼女は“ひとりでいる”という感覚に苛まれていた。


 「……ルークスさん……?」


 返事はない。

 光も届かず、魔力すら通じない。


 (……これが、“信頼の試練”?)


 そのとき、空間が彼女に問いかけてきた。


 《あなたは、彼がいなくても歩けるか?》


 《彼に“信じられていなくても”、信じ続けられるか?》


 ミュリナは、数秒の沈黙ののち、息を吸って答えた。


 「わたしは……彼がいてくれるから、ここまで来られた。でも……それだけじゃない。“わたし自身が、わたしを信じたい”」


 言葉が放たれた瞬間、空間が砕け散った。


 ──そして、セリナ。

 彼女は、“未来が見えなくなった空間”にいた。


 「……視えない。何も……」


 予知に頼らずに世界と向き合うことは、彼女にとって最も苦しい試練だった。


 《未来が視えないあなたに、“信頼”は可能か?》


 《確信のない道で、“他者の光”を信じられるか?》


 セリナは震える手で胸を押さえながら、はっきりと答えた。


 「……信じるの。“見えるから”じゃない。“見えなくても、そこにある”って、知ってるから」


 その瞬間、彼女の周囲にも光が差し込む。


 一方、ルークスは──


 静かに剣を見つめていた。


 空間は彼の過去を再現していた。

 過労と絶望、死の淵を迎えた“東雲悠人”としての終末の記憶。


 《力があれば、誰かを救えるのか?》


 《その力を持って、君は“人でいられるのか”?》


 ルークスは、短く答えた。


 「……そんなものは、俺が決める。“選び続ける限り”、俺は俺だ」


 その答えを以て、すべての空間が同時に“再結合”した。


 ──試練、終了。

 ──共同意志、仮承認。

 ──継承資格、“第一段階”通過。


 監視者が最後に語りかけた。


 「……今、お前たちは“ひとつの選択肢”として存在を認められた。だが“次の扉”は、真の対話と“他者との共生”の果てにある」


 「来るがいい。“分かつ者”と、“繋ぐ者”の間で揺れるこの世界の、“本質”へ」


 言葉が終わると同時に、中枢の核に新たな文様が浮かび、空間が再び閉じた。


 それは“鍵”だった。


 次の遺構。次の真実。

 ──次なる試練への“座標情報”。


 都市は静かに息を吐き、再び眠りに落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ