表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/175

第19話・第2節「閉ざされた回廊、動く記録」

裏口から都市内部へと潜入したルークスたちは、長く続く石造りの回廊を抜けていた。


 内部は驚くほど静かだった。


 朽ちた柱、崩れかけたアーチ、そして床に散乱する魔導装置の残骸。

 けれど、それらすべてが“生きている気配”を残していた。


 「……誰もいないのに、視線を感じる」


 ミュリナの言葉に、セリナが頷く。


 「都市が……見ている。正確には、“記録装置の意識残渣”みたいなものが、反応してるの」


 その瞬間、通路の先──巨大な扉の前で、空間が揺れた。


 「──アクセス承認。仮認証者:“記録媒体ルークス=ノード”。構成コード、一致」


 淡い光が扉を満たし、ゆっくりと開かれる。


 中には──


 巨大な球体状の空間が広がっていた。

 天井は星空のように光点が散らばり、壁面には無数の魔法陣と符号が浮遊している。


 「これ……全部、“記録”?」


 「違う。“記録を記録するための記憶装置”だ。……入力と出力の両方を備えた、“記憶との対話空間”」


 その言葉に、ミュリナがわずかに息を呑む。


 ルークスが一歩踏み出した瞬間──空間がきしみ、映像が再生された。


 「──日付:帝国暦423年。“収束計画、最終段階”」


 映し出されたのは、かつての帝国科学官たち。

 彼らは魔力安定装置の前で議論していた。


 《これ以上のエネルギー増幅は、危険です。魔導核の収束率が限界を超えます》


 《だが、止めることもできない。“意思を持った魔力”は、すでに“自立の域”に入っている。我々の手を離れた》


 《それでも、記録は必要だ。“失敗の記録”であっても、誰かが見ることで意味になる》


 《……ならば、この空間に封じよう。“未来の誰か”がここに辿り着いたとき、選択できるように》


 記録がそこで途切れ、空間が再び静まる。


 「……この都市が崩壊した原因、“暴走した魔力核”じゃない。……“意志を持った魔力そのもの”だ」


 ルークスの表情が強張る。


 「かつて、人間たちは“魔力に命を与えようとした”。だが……その魔力は、彼らの制御を拒んだ。“創造主を否定した”んだ」


 ミュリナが、静かに言葉を継ぐ。


 「そして、都市全体を“閉じること”で、世界との接触を断った。“意志”が世界に影響しないように」


 「……だが、それが“封印”なら、どうして今、俺たちに“反応してる”?」


 その問いに応えるように、空間の中心が微かに光を帯びた。


 「──記録媒体、問う。“現在の継承者は、自己を定義できるか”」


 まるで、都市そのものが語りかけてくるようだった。


 「……自己定義?」


 「たぶん、“お前は誰だ”ってことだと思う。過去でもなく、力でもなく、名でもなく。“意思で自分を定義できるか”──って」


 セリナの声は、確信に満ちていた。


 ルークスは、ゆっくりと前へ出る。


 「俺の名は、ルークス。“東雲 悠人”として生まれ、そしてこの世界で、“選び続ける者”として生きている」


 「……人ではない力を持ち、人であることを選び直している。──これが、俺の“現在地”だ」


 光が揺れた。


 ──仮定義、受理。


 ──継承試験、保留。次段階へ進行。


 そのとき、球体の空間に小さな震動が走る。


 「……なんだ?」


 「誰かが……都市の別区画に入った! しかも、“この記録装置と同調できる”……!」


 ミュリナの警告と同時に、空間が再び揺れる。


 「来たな、“第三の観測者”」


 リセルが低くつぶやいた。


 「──都市の記録を狙うのは、私たちだけじゃない。“学術ギルドの影”、そして“断章商会の再派遣組”が、そろそろ動く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ