第17話・第2節「交差する剣と癒し」
──剣と剣が、再び火花を散らす。
ルークスとセルヴァは、遺構の防衛中枢を挟む形で激しくぶつかり合っていた。
斬撃が交わるたびに、周囲の空間がわずかにゆがみ、遺構の壁が再生と破壊を繰り返す。
「……その剣。基礎がある。“規範”から外れていない」
「戦闘のために造られた剣じゃない。“生き延びるため”に、自然とこうなっただけだ」
セルヴァは静かに頷いた。
「……ならば、我らも“生き残るため”に斬る。これは、敵対ではない。“選別”だ」
ルークスの視線が鋭くなる。
「誰が、誰を“選ぶ”っていうんだ」
「この世界だ。──いや、“過去の遺構たち”が。“誰をこの先に進ませるか”、それを見極める眼として、我らは動いている」
その言葉に、ルークスは剣を止めた。
「……お前たちは、“遺構の管理側”か?」
「違う。“それを継承しようとした者の、断片”。──だが今は、目的を失い、“選ばれる者”を探して彷徨っているだけだ」
沈黙。
その隙をついて、別の敵部隊がミュリナを狙って回廊の側面から突撃してきた。
「──対象、補助術士。捕縛優先!」
魔力の針が放たれる。
だがそれは、彼女に届くことはなかった。
「“祝福結界──聖界の律動”」
ミュリナが紡いだ言葉に、光が奔る。
空間全体が静かに震え、放たれた攻撃が“消失”した。
敵の術士が、口を開けて驚く。
「……存在ごと、術式が消された……!? “無効化”じゃない、“再定義”だ……!」
ミュリナの周囲に浮かぶ光は、もはやただの治癒魔法ではない。
空間そのものに作用する“神聖再構築”の片鱗。
「わたしは、ただ癒すだけじゃない。あなたたちが“壊したもの”を、“元に戻す”力を持っている」
それは静かだが、確かな宣言だった。
敵の一人が剣を抜いて突撃するが、ミュリナは一歩も退かず、術式を解放する。
「──“巡環の理”」
その一撃が触れる寸前、空間が巻き戻るように波打ち、敵の身体は術を放つ前の状態に“戻されて”いた。
「時間干渉……!? この女、“どこまで進化している……”」
その一部始終を見たセルヴァが、ルークスの横でつぶやいた。
「君の“補助者”は、もはや補助ではない。“神聖魔導の始祖格”だ」
「わかってる。──だからこそ、彼女を“標的”として見てきたこと、もうやめてもらおうか」
ルークスの剣が再び閃いた。
だがその刃には、殺気はなかった。
むしろ、確かに“守るための力”が宿っていた。
「お前が“奪う者”じゃないのなら、ここで斬り合う理由はない」
セルヴァはしばらく黙っていたが、やがて剣を引いた。
「……この場は引こう。我らは測った。“お前たちがどこまで進化したか”を。──それが、十分だったかはまだ分からぬがな」
「必要なら、何度でも戦う。だが次は、ただの測定じゃ済まさない」
「そうあってくれ。“次”は──こちらも“決意”を持って来る」
そう言って、セルヴァとその部隊は影のように退いていった。
遺構に、ようやく静寂が戻る。
ルークスは剣を納め、ミュリナのもとへと歩み寄った。
「……すごいな。あの術、完全に“神域”の力だった」
ミュリナは少し照れたように笑った。
「あなたと出会ってから、世界が変わった気がする。……でも、まだ“届いてない”。わたし、もっと強くなる。あなたの隣で歩くために」
ルークスはその言葉に、静かに頷いた。
「次は、“共に進む者”を探す番だ。……俺たちだけでは、この世界の全部には届かない」
遺構の天井から、光が差し込んでいた。
ふたりの影が、長く伸びる。
──その先にあるのは、“戦いの果て”ではなく、“選び取る未来”だった。