表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/175

第14話・第1節「仮面の使者と情報の代償」

森を抜け、丘の中腹にある小さな草原に差し掛かったときだった。


 ルークスは立ち止まり、わずかに眉を動かした。

 視線は周囲の木々へと滑り、次いで空の色を読み取る。


 「……出てこい。匂いが風に乗ってる。隠れるなら、せめてもう少し離れた場所にしろ」


 その声と同時に、草むらの影が揺れた。

 やがて姿を現したのは、仮面をつけたふたりの人物──ひとりは女、もうひとりは男。どちらも全身を薄い法衣のような服で包み、肌を一切見せていない。


 「お見事。さすが“遺構を開いた者”」


 声は抑揚が少なく、どこか機械的ですらあった。


 ルークスの手が剣の柄にわずかに触れる。


 「名を、名乗れ」


 「我々は“断章商会”。この地で“古き力”を研究・保存・流通する組織だ」


 「……流通?」


 「ええ、力は隠すべきものではない。“秩序”の名で独占されるべきでもない。適切な価値を見出した者が、正当な対価を支払い、それを用いる。──それが、我々の理念」


 ルークスは表情を変えないまま問う。


 「俺の前に現れた理由は?」


 「簡単です。──あなたが“遺構を起動させた”から。我々の監視魔術がそれを感知し、あなたという“異常な波長”を記録した」


 「それで……何が目的だ?」


 仮面の男が手を広げる。


 「交渉です。我々と組みませんか、ルークス殿。“あの遺構の真実”を共有し、さらなる知見と技術を手に入れる。……対価として、あなたが“その力を制御する術”を得ることもできる」


 ミュリナが思わず一歩前に出た。


 「その提案……とても“公平”には聞こえない。あなたたちは、何かを隠してる」


 仮面の女が無言で首を傾げた。

 その仕草が、人間的な感情を一切感じさせなかった。


 「それは、交渉において“当然の処置”でしょう。すべてを開示する取引など、存在しません」


 「……ならこちらも同じだ。“すべてを開示しない”ことにした」


 ルークスの言葉に、仮面の男がわずかに肩をすくめた。


 「残念です。我々は誠実な対話の機会を望みました。だが、それを拒むのであれば──次は“実力行使”も視野に入れなければなりません」


 剣が抜かれるかに思われた、その瞬間。


 仮面の女が、何かを投げた。

 空中で翻ったのは、巻物状の紙だった。


 ルークスが受け取り、開く。

 そこには古文書のような記述と、魔術文字による地図が記されていた。


 「それは“次の遺構”の在処。……我々が“次に向かう地”です。──もし、協力を望むのであれば、そこで再び会いましょう」


 「そのときは、“交渉”ではなく、“戦い”になるかもしれないぞ」


 仮面の男女は一礼し、風のように森の奥へと姿を消した。


 ──残されたのは、巻物と、重い沈黙だった。


 ミュリナが小さく息を吐く。


 「……ルークスさん、信じていいと思う? あの情報……」


 「信じるかどうかじゃない。“使うかどうか”だ」


 ルークスは地図の一部に記された紋様に目を凝らす。


 「これは……王都の古魔術院が封じた印だ。つまり、やつらは王国が“危険すぎて隠したもの”に、手を伸ばそうとしている」


 「……止めないと?」


 「いや、止めるだけじゃ足りない。“そこに何があるか”を、俺たち自身が見極める必要がある」


 彼の言葉には、もう迷いはなかった。


 過去の記憶が欠けていようとも。

 この力が“誰かの遺産”であったとしても。

 今、確かにルークスは、“自分の意思”で世界を歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ