第11話・第2節「共に立つことの意味」
ギルドを出たルークスの背中は、いつになく静かだった。
怒りや焦燥とは違う──“決めた者の背”だった。
宿の扉を開けると、ミュリナが窓辺にいた。
窓からの風に、銀色の髪が揺れていた。
彼女は振り向いた。
表情は穏やかだったが、その奥にある決意を、ルークスはすぐに見抜いた。
「……話したいことがあるの」
ミュリナの声は小さいが、真っ直ぐだった。
ルークスは無言で椅子を引き、向かい合うように腰を下ろす。
「私、思ってたの。あなたの隣にいることで、あなたを危険に巻き込んでるって」
「……」
「昨日、連れ去られたとき、自分の存在が“誰かの欲”にとって“道具”になってるって、はっきりわかった。でも……」
言葉を切り、ミュリナは自分の胸に手を当てた。
「助けてくれたあなたの背中を見て、私は“守られるだけの存在”ではいけないと思った」
ルークスが、わずかに目を細める。
「自分の足で立って、あなたと“並んで”歩いていたい。……それが、今の私の答えです」
部屋に、静けさが満ちる。
ルークスは、ゆっくりと息を吐いた。
「……お前がそう言ってくれて、嬉しい」
彼は立ち上がり、ミュリナの前で手を差し出した。
「一緒に歩こう。助けるためでも、守るためでもない。“生きるために”並んで立とう」
ミュリナの目が潤む。
だが、彼女はもう涙を流さない。
その手で、ルークスの手をしっかりと握り返す。
「……うん。行こう」
その時、ふと部屋の隅に置かれていた杖が、わずかに光を帯びた。
ミュリナが驚き、手を伸ばすと、杖に触れた瞬間、温かい反応が返ってくる。
「……これは……?」
ルークスは眉をひそめ、彼女の掌と杖の接点を見る。
「魔力の共鳴……?」
よく見ると、杖の根元にうっすらと“紋様”が浮かんでいた。
それはルークスの使う魔力の“気質”と似た性質を持っている。
「おそらく、俺の力と……お前の癒しの力が、少しだけ繋がり始めている」
ミュリナが目を見開く。
「じゃあ……私たちの力が、混ざって……?」
「それはまだ不安定だ。だが──可能性はある。お前の力が、俺を“支える”力に変わるかもしれない」
ミュリナが笑った。涙を浮かべず、ただ確かに“隣に立つ者”の笑みで。
「それなら、私はもっと強くなりたい。あなたに追いつくために、あなたの隣に“本当に”いられるように」
ルークスは頷いた。
「お前が“並ぶ”と決めたなら、俺もその歩調を合わせよう」
ふたりの間には、もはや“守る/守られる”という関係性はなかった。
共に歩く。共に生きる。
それは、この世界で最も強い“絆”の形だった。