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第48話 第11節「静寂の後、鳴り響く鐘」

天義騎士・零号個体との死闘が終わったあと、礼拝堂にはしばらく沈黙が満ちていた。

 崩れた柱の隙間から差し込む陽光が、瓦礫と血に塗れた床を淡く照らす。焼け落ちた天蓋の一部から風が吹き抜け、まるでこの場に漂っていた“死”そのものを洗い流そうとしているかのようだった。


 ルークスは剣をゆっくり鞘に収め、深く息を吐いた。

 その眼差しには、戦いの余韻など微塵も残っていなかった。ただ、これからの道を見据えるように、まっすぐに前を向いている。


 「……まだ、動ける?」


 ミュリナの声がかすれた。彼女は膝をついて息を整えていたが、祝福術の連発で消耗しきった身体を無理やり立たせる。


 「もちろんだ。まだ、やるべきことがある」


 ルークスの声には、揺るぎがなかった。


 その横で、ジェイドが無言のまま立ち尽くしていた。

 彼は先ほどの戦いの中で、零号個体の仮面の奥に“人の顔”を見たことが忘れられなかった。


 「……なぁ、ルークス。あれは“元”人間だったんだよな。聖騎士が、教会に……」


 「――魔術によって改造され、“聖印”という呪詛装置を組み込まれた。もう、意識も言葉も残っていなかったが……それでも、あの最後の微笑みは、きっと本当だった」


 「……救われた、って顔だったよな」


 ジェイドは拳を握りしめた。その指は微かに震えていた。


 「だったら、俺たちの戦いは無駄じゃなかった。いや……ここからが“本番”なんだ」


 そう言ったのはセリナだった。

 彼女はすでに次の行動の準備を始めていた。剥き出しになった地下礼拝堂の奥の扉、その向こうにある“中央制御室”へ向かうため、結界の解析を行っている。


 「見て。扉の封印文字、《旧言語》じゃない。これ……“始源言語”よ」


 ミュリナが目を見開いた。


 「始源言語……つまり、“聖典の原型”に記されていた神の言葉……それを使ってるってことは、この先にあるのは……」


 「――“神格装置”。中央教会の根幹にして、信仰の源を模倣した《虚構神の中枢》。恐らく、この礼拝堂は、信仰心を定期的に集めて、神格装置に供給していた“集信機構”の一部」


 セリナの声は淡々としていたが、その奥にある怒りは隠せなかった。


 「人の祈りを、利用していたってわけね」


 「……祈りは、誰かを想って向けられる“純粋な気持ち”のはずだ。それを、権力と管理のための“燃料”にしたなんて……」


 ミュリナの瞳に怒りと悲しみが灯る。


 ルークスは、そんな彼女たちの思いを静かに受け止め、前に出る。


 「行こう。この真実を、外に出す。闇の中に埋もれたままじゃ、人々は一生、偽りの神に縛られ続ける。ミュリナ、お前が“本当の聖女”として歩むためにもな」


 「……うん」


 ミュリナは微笑みながら、頷いた。


 その瞬間、礼拝堂全体が微かに振動した。


 「っ……地震?」


 「違う、これは――“神格装置”が目覚めかけてる。このままじゃ、この区画ごと飲み込まれるわ」


 セリナが叫んだ。


 「選ぶしかない。突入するか、撤退するか」


 「決まってるさ」


 ルークスは剣を引き抜いた。


 「俺たちは、この先に踏み込む。真実を、この手で暴くために」


 扉に記された封印文が淡く輝き、ひとりでに開いた。


 その先に広がっていたのは、機械と聖堂が融合したような異質な空間だった。

 天蓋の代わりに浮かぶ光の輪――祈りを集め、歪んだ神性として構築された《神格装置》。その中心には、巨大な“顔のない像”が祀られていた。


 それが、この王都を支配する“偽りの神”の本体だった。


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