第48話 第9節「機械仕掛けの審判」
真聖堂の礼拝堂、白大理石の床に反響する重厚な足音。現れたのは、銀の甲冑に身を包み、顔を持たぬ《天義騎士》たちだった。無機質な存在でありながら、その足取りは意志を持つかのように迷いがなかった。
「五体……いや、六……っ、全て《上位機導個体》……!」
ジェイドの声が震えた。彼はかつて、教会の武装部隊に籍を置いていた。その彼が畏れを抱くほどの強敵――それが、今ルークスたちの前に立ちはだかっている。
「通常の魔術は通らない。奴らは“教会認可印”でしか制御不能。内部に独立魔核を持っている。つまり……半ば神に等しい存在だ」
「じゃあ、その神を超えればいいだけのことだろ?」
ルークスは冷ややかに言い放ち、前に出る。
《天義騎士》たちが、彼の存在を“異端認定”した。背後の壁に組み込まれた聖印管理端末が、赤い光を放って警告を発する。
──《警告:対象 ルークス=識別不能魔力・異端認定》
直後、二体の騎士が長槍を構えて突進してくる。
「させないっ!」
ミュリナが前に立ち、両手を組む。
「《癒光結界・双層装》!」
彼女が展開した結界がルークスを包み、その魔力を強化する媒介となる。
その中で、ルークスが魔術構成を開始した。
「制御不能の魔核ならば、外からの干渉で“無限加速”させて……暴走させてしまえばいい」
彼の周囲に、黒と金の二重の魔法陣が生じた。
「《魔導理論式・干渉共鳴/第零式》――“解体干渉”!」
放たれた魔力は騎士の外装ではなく、その内部魔核に直接干渉する特殊な術式だ。直撃を受けた一体が突如として停止し、次の瞬間、体内から蒸気のような光を噴き出して崩れ落ちた。
「成功……したの?」
「一体だけな。こっちも魔力消費がえげつない。これをあと五回……は、無理だ」
そう言った直後、他の四体が周囲に散開し、一斉に遠距離射撃体勢へと移行する。
「散開、回避行動!」
ジェイドが叫ぶと同時に、蒼白い光の雨が礼拝堂を包む。床が砕け、柱が崩れ、燭台が宙に浮くほどの衝撃波が空間を襲った。
セリナが空中で宙返りを打ちながら、魔弾を放つ。
「《火炎弾・三連跳弾》!」
三つの魔弾が騎士の肩部装甲に炸裂するが、表面を焦がす程度に留まった。
「駄目ね。こいつら、対魔術装甲がエグすぎる」
「なら物理だ!」
ルークスが飛び出す。その拳に、魔力と重力干渉を融合させた“超重撃”を収束させる。
「《圧縮重撃・歪曲球》ッ!」
拳が、騎士の胸部を直撃し、その装甲を内側から砕く。歪んだ光が弾け、その個体も崩壊する。
「あと三体……!」
ミュリナは汗を拭いながら聖印を両手で押さえる。
「時間を稼ぎます。ルークスさん、次の攻撃を――」
だがその時、聖堂全体に再び警告音が響き渡った。
──《警戒レベル・最大に移行。天義騎士“零号個体”解放開始》
礼拝堂の奥、封印の扉が開き、黒き大鎧に包まれた“異形の騎士”が姿を現した。
「まさか……零号個体……!? あれは、神に最も近づいた兵器……」
その背からは、天使のような光翼が伸びていた。だがそれは祝福ではなく、神の名を騙る力の象徴。
ルークスは静かにその存在を見据えた。
「本当に“神”を語るなら――その欺瞞、俺が暴いてやるよ」
決戦の幕が、今、上がる。