表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/175

第48話 第8節「真聖堂への潜入」

 夜の帳が王都を覆う中、ルークスたちは“影の神殿”を後にし、目的地――中央教会の心臓部、《真聖堂》へと向かっていた。


 真聖堂。それは王都の中心、七つの環状区画の最奥、《聖環区》にそびえ立つ白亜の巨殿。信仰の象徴として建てられたその大伽藍は、同時に“異端者を処断する鉄の裁きの塔”としての顔も持っていた。


 「この道……人目が多い。だが、抜け道はない」


 ジェイドが地図を睨みながら呟く。


 「ここから先、正面突破は無謀です。裏門の警備も強化されている。地下の通路しか……」


 セリナが囁くように続ける。


 その案に頷きながら、ミュリナがルークスの袖を引いた。


 「……私、案内できるかもしれない。“旧修道女寮”の地下通路、まだ残っていれば」


 「旧寮……?」


 「かつて、聖女候補だった頃に通された場所。あそこは正式な聖堂区画ではないから、教会の聖印警戒網には引っかかりにくいはず……」


 その言葉に一縷の希望を見出した一行は、聖環区南端にある古びた修道院跡地に潜入する。廃墟同然の建物だが、地下に降りるとそこには厳重な封印魔法が残されていた。


 「……魔封印の類か。だが、理論構造は古い」


 ルークスは印を組み、右手に黒き魔力と金色の光を絡ませた。


 「――《重層封解式・第七理層》」


 淡く光る魔方陣が現れ、カチリと音を立てて結界がほどける。


 奥へ進むと、そこは時間が止まったかのような静寂の回廊だった。石造りの壁に刻まれた古代語は、“真の教義”を記した予言詩。その詩文の一つが、ミュリナの目を引いた。


 >――《選ばれし導き手、神の欺きを暴き、偽りの神殿を砕かん》


 「……これって……」


 「今までの道程、無駄じゃなかったってことさ」


 ジェイドが微笑む。


 やがて彼らは、通路の終点に到達した。そこは真聖堂の礼拝堂裏手、いわば“神に仕える者以外、決して踏み入ることを許されぬ空間”。


 だが今、その静謐は破られようとしていた。


 「扉の先は、真聖堂の“内核”だ。そこに“聖印管理機関”の装置がある。ここから先は、もう後戻りできねぇぞ」


 ジェイドの言葉に、ルークスは静かに頷く。


 「俺たちは、真実を知った。そして、それを伝えると決めた。もう逃げない」


 セリナが杖を構え、ミュリナが聖印を胸に手を当てる。


 「……光よ。私に、迷わぬ心を」


 薄く開かれた扉の隙間から、白銀の礼拝堂が見えた。そこには人の姿はない。だが、空間全体に“見られている”ような圧が漂っていた。


 「……気配がする。魔術式が、こちらの侵入を察知してる」


 「よし。なら、一気に行こう」


 ルークスが前に出て、扉を押し開いた瞬間――


 光が爆ぜた。


 瞬時に展開された結界の檻が、四方から襲いかかる。


 「くっ……迎撃式か!?」


 だがその刹那、ルークスの右目が黄金に染まる。


 「《反響転写術式・逆位相》――砕け散れ!」


 放たれた魔力が、空間の制御構造そのものを逆流させる。


 結界が悲鳴をあげて崩壊した。


 静寂が戻ると、そこには大理石の床、燭台の揺れる火。奥には《聖印管理機関》の中心核があった。


 「これが……真聖堂の心臓か」


 ジェイドが呟く。


 「データを抜き出す。これがあれば、教会の“選別記録”と“異端抹消命令”の裏付けになるはずだ」


 「でも、きっともう……敵も動いてる」


 ミュリナが緊張に震える声で言った。


 その通りだった。


 礼拝堂の奥から、重々しい鎧の音が響き始める。


 ――教会が放つ“最終防衛兵”、《天義騎士セラフィック・アーム》。


 それは、人ではない。聖印と機構によって生み出された“人形の騎士”たち。


 ルークスたちの試練は、まだ終わらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ