表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/175

第48話 第2節「神の代弁者、大教主ミスラ」

真聖堂の地下――契約の聖域にて、空間が大きく脈動する。


 振動は音を伴わず、空気が引き裂かれるように“理の層”を侵食してくる。石壁に刻まれた古の契約文が、光を放ちながら意味を失っていく。まるでこの地の“真理”そのものが、外からの意志によって塗り潰されるかのようだった。


 「来るぞ……!」


 ルークスがミュリナの前に立つ。

 その背後、空間が割れるように開き、歪んだ光の中から一人の人物が現れる。


 白銀の法衣。顔を覆う深紅の仮面。だが、ただ立っているだけで、空間そのものが震えていた。


 「神聖王国中央教会・第十三代大教主……“ミスラ”か」


 セリナが口を引き結ぶ。聖女である彼女にとって、その存在はただの権力者ではない。かつての“信仰の象徴”であり、自身を導いたはずの存在だった。


 ミスラの声は、仮面の奥から響くように放たれた。


 「やはり、ここに集ったか。裏切りの聖女、正義を騙る異端者、そして“人の理を超えた存在”よ」


 視線はルークスへと注がれる。


 「お前は……人ではない。人にして、人ならざるもの。よって、この世界の契約に立ち入る資格は、本来ならば存在しない」


 「なら……俺がここに立ってる理由は何だ?」


 ルークスの声には迷いがなかった。


 「この場所が“人に隠された契約の地”なら、ここに立つ者は――“真実に触れる資格を持つ者”だろ」


 ミスラの仮面が、わずかに傾く。


 「……興味深い。だが、“選別”の理はすでに定まった。光は“選ばれし者”にのみ与えられる。それが、神が定めし真理」


 「それは、お前たちが“神を名乗って”改ざんした理だろ!」


 ミュリナが叫んだ。


 「“選別”なんて、神は言ってない! “共存”が、本当の契約だったはず!」


 その声に、空間が震える。

 “契約板”が、ミュリナの叫びに反応するかのように光を放ち、聖域全体に“原初の波動”が広がっていく。


 ミスラが右手を掲げた瞬間、無数の“神性の光”が空中に浮かび上がる。

 それは剣でも魔術でもない、“神そのものの権能”。ルークスでさえ一瞬、体を固めた。


 「ルークス、気をつけて!」


 セリナの叫びと同時に、光が一斉に放たれる。


 が――


 「……効かないさ」


 ルークスは腕を前に突き出し、白と黒の双極が交錯する盾を展開した。

 “支配”と“共存”、ふたつの契約のエネルギーを同時に操る、唯一の存在――


 「お前の“神性”は、一方だけの力だ。だが俺は、両方を抱えて立ってる。片方しか見ないやつに、真実は見えねぇ」


 放たれた光の嵐は盾に吸収され、逆流していく。


 「なっ……!?」


 仮面の奥のミスラが声を漏らす。

 だがその隙を、ルークスは逃さない。


 「ミュリナ!」


 「はいっ!」


 彼女が契約板を掲げ、全身の魔力を転化させる。


 「――《聖句解放・エル=プロトコル》!」


 瞬間、空間全体に“契約の真理”が放たれた。


 それは、かつて神が人に与えた“光”の本質。

 誰かを選ばず、誰かを斬らず。すべての命に等しく降り注ぐ、かつての“祝福”――


 ミスラの法衣が軋み、彼の体から黒い霧が溢れ出す。

 それは、“大教主”の名の下にまとっていた偽りの神性が、原初の契約の前に崩れていく証だった。


 「お前たち……何を……成そうとしている……!」


 その問いに、ルークスはただ一言、こう告げた。


 「“神を信じる”ことを、もう一度、人に返す」


 それは、誰かに与えられた信仰ではなく、“選び取る自由”としての信仰だった。


 そして――大教主ミスラとの戦いは、ついに決着の時を迎えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ