第47話 第7節「第二の神格審判者、降臨」
神域の天頂が割れた瞬間、光と闇がねじれたような衝撃波が辺り一帯を包み込んだ。
突如として現れた“第二の神格審判者”は、先ほどのアルノとは異なる造形をしていた。全身が白銀の装甲で覆われており、その表面には多数の“聖句”が魔力紋章として刻まれている。それはまるで、教会が“神”そのものを象って造り上げた偶像のようだった。
――神の名を騙り、正義を着飾った虚飾の怪物。
「自己認識コード:ゼロス。任務:神格反逆因子の排除」
その無機質な声が、空間全体に反響した。
「来たか……」
ルークスが一歩前へ出る。黒き“影の聖印”が彼の背中で脈動していた。
対するゼロスは、胸部に内蔵された“聖印連結炉”を稼働させる。
「魔力出力、三十五万ルクス……。規定値、超過。概念干渉モードへ移行」
「こっちは……人の希望ってやつを信じてみよう」
ルークスは足元から力を引き上げるように魔力を纏い、“影の真理式”を展開した。これは“始源の教義”をもとにした再構築魔法――“自由と共存”の理を概念として構築する技術だ。
ゼロスが咆哮するように空間を断ち割り、光刃の柱をルークスへと放った。
だがその瞬間、ルークスは一歩も動かず、ただ片手を前に翳した。
「《理象干渉式:黒葬盾界》!」
炸裂音と共に、黒き障壁が空間を歪め、ゼロスの光刃を吸収するように呑み込んだ。
「解析不能……この魔力構造……存在しない理論式……!」
ゼロスの計算演算領域が混乱を起こしている。
「“存在しない”んじゃない。“消された”だけだ。教会が都合よく、真実を消し去った」
ルークスはすでに次の魔術式を編み上げていた。
《概念式・双環具現――黒槍“オルタリア”》
闇と銀が交錯する双槍がその手に具現される。
ゼロスが迎撃に出ようとしたその刹那、背後から別の影が飛び出す。
「遅れてごめん……でも、間に合った!」
セリナが詠唱を終えた神聖光陣が、ルークスの周囲に展開される。それはただの補助魔法ではない。“真の聖女”として覚醒したミュリナが、彼女に託した祝福だった。
「《聖紋解放――盟光の共鳴》!」
ルークスの身体を包む闇の魔力に、聖なる加護が同調する。矛盾するはずの闇と光が、彼の意志のもとでひとつの力として結実した。
「ゼロス、今度はお前が問われる番だ。“神”とは何か。“正義”とは何か――!」
ルークスが双槍を構え、駆け出す。
衝突する二つの“神格”。
その余波だけで空が裂け、地が割れ、神域の構造自体が崩壊を始めた。
「迎撃開始……対象、“理性をもって抗う者”と認定。存在価値、即時破棄対象に再分類」
ゼロスが天から“審判の剣”を召喚する。
しかしその剣が振り下ろされるよりも速く、ルークスの黒槍が宙を裂き、正面からゼロスの胸部へ突き刺さった。
「コード接続……断絶。誤作動……発生……――」
ゼロスの身体が揺れる。機構が焼け焦げ、光が散る。
「まだだ。これは……終わりじゃない」
ルークスがゼロスの中央炉に手を当てる。
「今度は“お前”の中にある人の声を、探す番だ――!」