第47話 第2節「決戦前夜、暁の誓い」
夜の帳が下りる頃、ルークスたちは王都セラフィア南西に広がる《墓所の森》に身を潜めていた。
黒殻街での“影の神殿”の発見と、真なる聖典の回収から数日。仲間たちは各自の準備を進め、いよいよ“真聖堂”への突入――すなわち、教会の中枢を暴くための作戦会議が始まろうとしていた。
篝火がゆらゆらと揺れ、燃える薪の香りが静かな森を包む。
「……どうやら、最終局面に入ったみたいね」
セリナがマントを翻し、焚き火のそばに腰を下ろす。その隣にはジェイドがいて、古びた地図を膝に広げていた。
「“真聖堂”の警備は三層構造。外郭は一般信徒向けの礼拝区画。中層に審問庁と聖騎士団本部、そして最上層に聖印管理機関と……神聖評議会がある」
ジェイドが指差した先、地図の中央には赤く記された円――すなわち《中央神塔》が示されていた。
「突入ルートは?」
ルークスが問うと、囁かれし者が口を開く。
「地の底、旧魔法文明時代の地下遺構――《沈黙の水路》を通る。そこから“聖域”の最下層へ侵入可能よ。だが、そこには《審問官型人形兵》が配備されている。聖印による強制認証がなければ、即座に処刑対象と見なされる」
「認証か……」
ルークスは懐から一枚の金属板――《偽聖印》を取り出した。それはミュリナが“影の神殿”に記された設計図から複製したものだ。
「これで数分は騙せる。ただ、突破後の迎撃は避けられない。……戦う覚悟が必要になる」
言葉を聞いて、ミュリナがゆっくりと頷いた。
「私は行くわ。かつて逃げた王都に、今度は“真理”を携えて戻る。その意味を、私自身の手で示すの」
彼女の眼差しには、かつての脆さはない。聖典の一節を想起するように、静かに語り続けた。
「“光は選ばず、照らすものすべてに等しく降り注ぐ”……。この言葉が、偽りではないことを、証明したいの」
セリナもまた剣を磨きながら言った。
「私は“教会の剣”として生まれた。でも今は違う。あんたたちの剣になる。そのために……この命を預ける覚悟は、もう決めてる」
ルークスは静かに彼女たちを見回した。
焚き火の光が皆の表情を照らし出す。
彼らは出自も信仰も違う。
だが今、この森で交わされた“誓い”は、何よりも強い絆で結ばれていた。
「行こう、“真実の奪還”へ」
ルークスの声に、誰一人として異を唱える者はいなかった。
夜は更けていく。
だが、その暗闇の中に、確かな光が宿り始めていた。
それは、“選ばれなかった者たち”が持つ、抗いと希望の炎だった。