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第47話 第1節「王都セラフィア、動くものたち」

王都セラフィア――。


 それは“光の都”と称されるに相応しい巨大都市であり、五つの大聖堂が天を突き刺すように林立し、銀白の外壁に守られたその姿は、あたかも神が創りし聖域のようであった。


 だがその輝きの裏では、いま密かに蠢き出していた。

 “神造兵アグレオス”の崩壊という報せは、既に最上層の《神聖評議会》に届いていた。


 「……ついに動いたか、“反逆者”どもが」


 評議会の議場に響いたのは、黒衣の男の低く乾いた声だった。

 枢機卿レオニード。中央教会内でも最も急進的かつ冷酷な思想を持つ男だ。


 「アグレオスを失った痛手は小さくない。だが、それが“奴ら”の命取りにもなる。我々の手札が尽きたと思わせておいて――次は“あの兵器”を解き放つ」


 「まさか、旧大戦時に封印された……?」


 別の枢機卿が目を見開く。


 「そう。“白銀の神罰セレフィム・アンサー”。あれは元より“反逆の芽”を焼き払うためのもの。今こそ、再び陽の下に解き放つときだ」


 一方その頃、王都の東端――かつて“異端者”たちが暮らしていたスラム街の一角に、小さな集会が開かれていた。


 「“影の神殿”が動いた。ルークス様が、真の聖典を手に入れられたらしい」


 そう口にしたのは、布のローブに身を包んだ若き青年、カルド。


 彼はかつて《異端追放リスト》に載せられた者の子であり、地下で活動する反教会組織《アトラスの灯》の末端に所属していた。


 「……ようやく、歴史が動くのか?」


 「動かすんだよ。俺たちの手でな」


 仲間の一人が、手に握った十字の欠けた護符を掲げる。

 それは、かつて“始源の聖典”を信じた者たちの象徴――“等しき者の印”だった。


 「神は選ばぬ。我らが選ぶ。その思想を……再び、王都の中心に刻む時が来たんだ」


 一方、王都の中央区・上層街。

 煌びやかな大理石の街路を、ひときわ目を引く馬車が走る。


 その中には、金色の髪を編み込んだ一人の女性がいた。


 「ついに……あなたが来るのね、ルークス」


 王女フィリア=ラザリス。

 彼女は公には“療養中”とされていたが、その実、王都内部にて密かに“改革派”としての活動を続けていた。


 「“真の聖女”の再来――ミュリナ。そして、“神の設計図”を手に入れたルークス。すべてが整いつつある……」


 彼女は手元の文書を見つめる。

 そこには、神聖評議会の“粛清リスト”が記されていた。


 「私たちが動かなければ、あの者たちは“未来”ごと燃やし尽くすわ」


 馬車の窓越しに見えた大聖堂。その尖塔は今も変わらず、空に向かって威圧的にそびえている。

 だがフィリアの目には、それが崩れかけた虚構の象徴にしか見えていなかった。


 「待っていなさい。近いうちに――その“虚構”を焼き払い、真実を解き放ってあげる」


 彼女の言葉に、従者が無言で頷いた。


 そして、街のあちこちで、“ルークス”という名が密かに囁かれ始めていた。


 それはまるで、かつての神話の英雄譚が再び語られ始めるかのように。

 聖なる都にて、火種は着実に広がり始めていた――


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