第46話 第8節「双核共鳴と“魔導の超越”」
轟音――雷鳴にも似た魔力の炸裂が、大聖堂を揺らした。
ルークスの背に発現した第二の魔核が共鳴を始める。ミュリナの“癒しの概念”を転用したこの魔核は、彼の体内で緻密に分割された神経・筋肉・魔力線の修復を、戦闘中にもリアルタイムで行い続ける。
まるで、戦いの最中に“死と蘇生”を繰り返すようなものだった。
「これが……“連結核動作”か」
吐き捨てるように呟きながら、ルークスは前傾姿勢から一気に踏み出す。
その動作は、人の視認可能域を超えていた。彼の身体はもはや“戦士”ではなく、“戦闘理論そのもの”に近づきつつある。
一方、浮上したアグレオスも反応する。
「――対象の魔力位相、変動検知。確率予測モード、解除。即時反応型戦術へ移行」
巨大な右腕が前方に迫り、空気を裂く。だが、ルークスはその一瞬の“魔力硬直”を読み取り、回避行動すら行わず――むしろ飛び込んだ。
「甘い!」
ルークスの右手が、そのまま敵の胸部の中央、“コアユニット”へと突き立てられる。
だが、突き破る直前で弾かれた。
「チッ……防御結界が三重か」
アグレオスの中枢は、神聖術式による多層結界に守られていた。そのすべてが、対“魔族系存在”への完全防衛を前提に設計されている。
(ならば……!)
ルークスは即座に次の手を選択する。
自らの左掌をかざし、魔力を“時間”の位相に変換。ミュリナの癒しの核と、自身の破壊特化核を同時起動させ、ある種の“矛盾干渉”を起こす。
「《時相偏向》」
空間が歪んだ。
正確には、“この攻撃が成立した”という事実を、物理的な因果に先行して発生させるという、禁忌の魔術理論。
アグレオスの結界が三重に存在していたはずの場所が、次の瞬間――既に破壊された状態として“確定”されていた。
「――バカな……」
ジェイドが呆然と呟いた。空間の定義すら書き換えるその魔術は、もはや“人の知”では扱いきれない領域。
「これが、“概念魔導”の真髄だ」
ルークスが腕を突き入れると、ついにその指先が、アグレオスの中枢“神核”へと届いた。
《神威中枢・アグレオスコア》。
それは、かつて神代の時代に造られた神の欠片――“降臨の欠片”をベースに構築された、擬似的な神性ユニットである。
「さあ、終わりにしよう」
ルークスは魔核を集中させ、全魔力を右腕に込めた。
そして――
「《破戒結晶・双核終律》!」
咆哮と共に、アグレオスの全身に無数の雷と光が奔り、構造を内側から崩壊させていった。
「コア、機能停止……全機構……解体モードへ……移行……」
アグレオスは、まるで意思を持った存在のように、最後の言葉を漏らした。
その巨体は、崩れ落ちるように地に膝をついた。
そして――ルークスの眼前で、静かに停止した。
「……終わったな」
静寂が訪れる。瓦礫の舞う大聖堂跡に、ただ一人、立ち尽くすルークス。
彼の身体からはなおも熱気と魔力が立ち昇っているが、その瞳は確かな勝利の光を宿していた。
「これが、俺の“戦い方”だ……!」
そしてその背後で、ミュリナとジェイドが、崩壊した天井の裂け目から差し込む光を背に、駆け寄ってくる――
神との戦いは、まだ終わらない。
だが確かに今、神に抗う者としての“資格”が、ルークスに刻まれた。