第46話 第7節「神威と魔核、激突の刻」
空間が、吠えた。
《神威兵装・アグレオス》の巨腕が振り下ろされるたび、大聖堂の壁が崩れ、床石が隆起し、魔力の奔流が天井を貫く。
その攻撃は、ただの質量ではない。
光の粒子――いや、“聖印”を模した封魔術式によって強化された破壊。対象の魔力構成を解析し、そこに“神罰”を刻み込むことで、存在ごと浄化しようとする――対魔術師特化の構造。
「ちっ、避けても魔力が削られる……!」
ルークスは跳躍し、魔力障壁を斜めに展開して直撃を受け流す。全身を包む黒銀の雷が、空中に散った瓦礫を瞬時に蒸発させる。
(この兵装……完全に“対俺”用に設計されてる)
彼は瞬時に解析した。
アグレオスの攻撃は、ルークスの持つ“多重魔核構造”の魔力波長を自動照準する機構で構成されていた。つまり、“魔核を起点とする強化系能力”に対し、異常なまでに最適化されている。
(ならば、逆を取るしかない)
ルークスは腰の短剣に触れる。
それは、ただの金属片だ。魔力も、呪具としての性質も、持たない――はずだった。
「《零式解放・型無し》……!」
黒雷が短剣に絡みついた瞬間、その刃が薄く震えた。
刃に宿るのは、“概念操作”の力――この世界の理に縛られない、異世界由来の力である。
「アグレオス。お前の分析に、この力は含まれていないだろ」
ルークスは瞬時に肉薄する。巨体ゆえの死角、関節部の魔力節点を一点突破する最短経路を――
「――斬る!」
瞬間、世界が光に染まった。
ルークスの放った一閃が、アグレオスの右膝関節部を寸断する。雷とともに迸ったのは、紅の閃熱。神威兵装の身体がたしかに揺れた。
「効いた……!」
「分析中……対象、規格外の魔力波形……判定不能」
アグレオスの機械音声が、ほんの一瞬だけ――“困惑”を含んだように聞こえた。
だが、すぐに状況は一変する。
「全機能、限定解除。最終戦闘領域へ移行」
ドォォォン――!
アグレオスの背部から浮遊ユニットが展開され、浮上。全身の節点が開き、内蔵兵装が次々と起動する。高密度の聖光ビームが乱射され、周囲の建造物が連鎖的に崩壊していく。
「くっ……!」
ルークスは飛び退き、神殿の柱の影に回避する。
「こっちも、まだ“奥の手”が残ってるんでな――!」
彼は袖から小さな水晶片を取り出す。それは、ミュリナがかつて“癒しの神殿”で見つけた奇跡の結晶――《記憶結晶》。
「“概念魔核・連動起動”……ミュリナ、借りるぞ」
瞬間、結晶が光を放ち、ルークスの背に“もう一つの魔核”が発生する。
それはミュリナの持つ癒しの神核と同質――“命を癒し、傷を拒む理”。それをルークスの魔核に“逆流”させることで、身体能力と回復を極限まで引き上げる“破断再生型”構造へ変質させたのだ。
「さあ、神造兵器。次は、こっちの番だ」
雷と光が交錯し――最終戦闘、第2ラウンドの幕が上がった。