第46話 第6節「封じられし神威と、聖堂の崩壊」
ギルゼンの《聖印》が砕けた瞬間――空気が、震えた。
王都の空に鳴り響く、奇怪な音。まるで天が警鐘を鳴らすかのように、大地が低く唸りを上げる。
「結界……崩れてる!?」
ジェイドが叫ぶ。彼の言う通り、中央聖堂を囲む魔法結界の光柱が、不安定に明滅を始めていた。
「この揺れ……外部からの干渉じゃない。これは――内部から“何か”が目覚めている!」
“囁かれし者”の瞳が大きく見開かれる。
ミュリナは聖典を胸に抱えながら、深く息を呑んだ。
「……あれは、《封じられし神威》の起動……。教会が千年前の遺構より回収し、禁忌とした……古の神造兵装」
その言葉に、ルークスの表情が一変する。
「まさか、ギルゼン……お前、王家裁定に備えて――!」
「そうだ……!」
ギルゼンが狂気を宿した目で叫んだ。
「貴様ら反逆者のために、備えておいたのだ……神すら屈服させる真なる《神威兵装・アグレオス》! この聖堂とともに目覚めよ!!」
瞬間、地下から雷鳴が轟いた。床石が爆ぜ、光の奔流とともに何かがせり上がってくる――
「ミュリナ! 下がれ!」
ルークスが前に出る。その腕に宿る魔力が膨れ上がり、瞬時に魔力障壁を展開。咄嗟の防御で爆風を相殺したが、視界は完全に白く染まった。
そして、次の瞬間。
そこに現れたのは――全長二十メートルにおよぶ黒鋼の巨神。
《神威兵装・アグレオス》。
それは教会が秘密裏に保存していた、古代神代文明の遺物。自律型魔導兵器であり、神の代行者と謳われる存在だった。
「“加護を否定せし者”よ、浄化せよ……」
機械のような無機質な声が響くと同時に、空間そのものが振動する。
神威アグレオスの掌から光球が生成され――瞬時に、裁定の間が火に包まれた。
「ぐっ……!」
ジェイドが空間魔法で転位し、ミュリナたちを抱えて避難させる。
「くそっ、あれをこの場で起動させたか……!」
「やっぱり、あんたは救いようのない“異端”だ、ギルゼン!」
セリナが叫ぶ。彼女の両手に聖なる炎が宿る。炎は穢れを焼き、偽りを穿つ神罰の力――“正統の聖女”にのみ与えられる聖火だ。
「ルークス、どうする? あれ、まともに相手して勝てる相手じゃない」
「――いや。勝つ」
ルークスの瞳に、静かに黒と銀の光が灯る。
「ここで負ければ、ミュリナの信念が、みんなの覚悟が踏みにじられる。だから、俺は――」
“第三魔核解放”
ルークスの右腕から黒き雷が奔り、その背後に浮かぶ三重の魔方陣が解放される。それは彼が長年秘めていた、異世界最強級の力。
「神威兵装だろうが関係ない。お前は“ここ”で終わる。お前の暴力で、教えをねじ曲げるその行為こそが、最大の“異端”だ!」
雷鳴が轟き、空間が裂ける。
《最終決戦》が、いま、始まった。