表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/175

第46話 第2節「影の対話者(シャドウ・スピーカー)」

王都の裏通り――

 表の通りが再建へ向けて動き出す一方、まだ焼け跡が残る路地の奥には、未だ立ち入り禁止とされている区域があった。


 その場所には、かつて《異端管理局》があった。

 人々から忌避され、異端者たちが秘密裏に収容されていた闇の施設。今やその建物は半壊し、壁には剥き出しの鉄骨、焦げた封印術式の痕跡が無残に刻まれていた。


 そしてその中心に、ひとりの男が立っていた。


 「……見つけたぞ、“影の書記官シャドウ・スピーカー”」


 ルークスの声が、静かに空気を裂く。

 廃墟の奥に潜んでいた黒衣の男が、にやりと口角を歪めた。


 「はは……あんたに会えるとは、思ってなかったよ。“神を殺した男”ルークス様」


 男の名は《バルナス》。

 かつて中央教会の命により、異端者たちの記録を管理し、処刑指示を出していた“記録官”だった。


 「この期に及んでまだ、神だの教義だのを信じてるわけじゃないだろ」


 「信じてなどいないさ。だが、“物語”としては実に面白かったよ。人が神になろうとし、神が人を装い、そして最後は一介の放浪者が全てを焼き払う。……いいねぇ、壮大な悲劇だ」


 「笑ってる場合じゃないぞ。お前が処理した異端者の記録、まだ持っているな」


 バルナスの目が細められる。

 その瞬間、空気の密度が変わった。


 「それを渡すことで、俺が何を失うか、わかっていて言ってるのかい?」


 「失うのは“沈黙”だ。代わりに、お前は“生きる意味”を得る」


 ルークスの言葉は、迷いなく鋭かった。


 沈黙が落ちる。

 バルナスは、笑うのをやめ、視線をゆっくりと足元へ落とした。


 「……俺は、“記録”というものが好きだった。ただ、それを続けていければ、それでいいと思ってた。誰かが見なかったことにした記録を、俺は“存在させ続ける”という行為に悦びを見出してたんだ」


 男は懐から、黒革の封筒を取り出した。

 それは、教会が破棄したはずの“処刑未遂者リスト”と、魔族との協力者とされた者たちの冤罪資料だった。


 「持っていけ。“正義”の名で使うのも、“復讐”に使うのも、好きにしな。だが一つだけ、頼みがある」


 「……なんだ?」


 「俺の名前を、記録しておいてくれ。“世界が変わる瞬間に、静かに立ち会っていた男がいた”ってな」


 ルークスは、封筒を受け取り、深く頷いた。


 「……約束しよう。《影の書記官バルナス》の名は、この先の物語に記される」


 バルナスは、満足げに目を閉じた。


 その瞬間、背後の崩れかけた天井が崩落した。

 瓦礫が轟音と共に降り注ぎ、彼の姿を包み込む――だがルークスは、敢えて一歩も踏み出さなかった。


 「……選んだのは、あんた自身だ」


 そう呟き、ルークスは背を向ける。


 手には、新たな“真実”が握られていた。


 それは、王都再構築に向けての“最後の鍵”となる記録だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ