表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/175

第45話 第5節「黒殻街・最終幕:封印されし記録の鍵」

ルークスが空を翔けたその瞬間――塔の地下、封鎖された記録層では、もう一つの“扉”が開かれようとしていた。


 「これが……“始源領域オリジン・ドメイン”への鍵……?」


 ミュリナが、今までに見たどんな魔法陣よりも複雑に編まれた紋章を前に、声を震わせる。

 それは神殿の奥深く、黒殻街の最下層に封じられていた“真なる記録格納庫”――禁忌の魔法理論と、原初の神々の演算構造が保存された場所だった。


 「開くぞ。これを見過ごすわけにはいかない」


 ジェイドが前に出て、ルークスが託していった《刻印石》を魔法陣の中央に置いた瞬間――空間が崩れ、目の前に“次元の裂け目”が出現した。


 「っ――! この感覚……時空魔術すら歪める……!」


 セリナが反射的に魔力障壁を展開する。が、それは全く意味をなさなかった。

 空間のゆらぎそのものが“概念として干渉”してくる。これは、通常の魔法では対応不可能な次元だ。


 裂け目の奥に、浮かぶ石造りの聖堂のような空間がある。内部には、天井まで届く巨大な記録石板が並び、それぞれが発光しながら数千の魔術式を自動演算していた。


 「……これ、全部が“情報”?」


 ミュリナの瞳が大きく見開かれる。

 「ちがうわ。これは……未来視。正確には“事象生成の分岐記録”」


 “囁かれし者”が神妙な顔で呟いた。


 「この場所は……“神”が人類を観測していた記録装置。無数の未来、無数の選択肢、無数の結末がここに残されている」


 「じゃあ、この中に……この世界がどこで狂ったかの“答え”が?」


 「ある。でも……見たら戻れない。自我が壊れるかもしれない」


 その言葉に、一瞬、沈黙が落ちた。


 だがミュリナは――恐れなかった。


 「私は……見たい。知りたい。私たちが立ち向かっているものの正体を」


 小さな決意だった。けれど、その背には“聖女”としてではなく、一人の人間としての覚悟が確かに宿っていた。


 「だったら、私たちも同行する」


 ジェイドが肩を竦める。セリナは無言で杖を掲げ、光を放った。

 彼らが一歩を踏み出すと、空間そのものが変質し始める。光がねじれ、音が凍り、重力が消える。


 そして――“それ”は、姿を現した。


 《幻装録書体エイドス・アーカイヴ》。

 記録世界の守護者にして、かつて神に仕えし“概念写像生命体”。


 「あなた方は、“記録へのアクセス権限”を持ちません」


 “それ”は、無機質な声で警告する。


 「……通してもらう。俺たちは、“記録されるだけの存在”じゃない。“未来を変える存在”なんだ」


 ジェイドの声に、わずかにアーカイヴの瞳が揺れる。


 「……ならば、問おう。“この世界を、なぜ救いたいのか”」


 その問いは、空間に響くのではなく、“魂”に突き刺さるような響きだった。


 セリナが応じた。


 「だれかの命が、“数字”や“記録”なんかで測られてたまるもんですか。私は――人を信じたい。信じた世界を、未来に遺したい。それだけです」


 “概念”の番人が、しばし沈黙し――やがて、ゆっくりと道を開いた。


 「承認。あなた方は“観測者”から、“創造者”へ移行する資格を持つ」


 石板が開かれる。


 そこには、ある名が刻まれていた。


 《ルークス・オリヴィエ》――“概念神格昇格候補”


 ミュリナの息が止まる。セリナもジェイドも、凍りついた。


 「まさか……ルークスって……人間じゃ……」


 “囁かれし者”が、わずかに唇を震わせた。


 「違う。彼は……もう“人間”じゃない。“人間であり続けようとする、唯一の概念体”よ」


 その瞬間、地下の記録空間に激震が走った。

 塔の上空、ルークスの魂が今まさに“因果を越えて跳躍”しようとしていた。


 真実は、すべてを貫いていく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ