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第45話 第2節「転写の塔への進撃」

 王都の東端、白の区画にそびえる「転写の塔」――それは中央教会の最大の“言語魔術施設”であり、聖文や教義、命令を一斉に全国へ伝えるための“魔力連結装置”でもあった。


 この塔が、教会による情報支配の“中枢”なのだ。


 「ここを奪取できれば、“真実”は王国全土へ一瞬で拡散される」


 ルークスの声に、緊張感が走る。

 塔の前に立つ彼らの視線の先には、魔法結界に守られた白銀の尖塔がそびえていた。


 「……さすがに、正面突破は無理ね」


 塔を取り囲むのは、強化された聖騎士部隊と結界術士たち。そして空中には魔導ドローン型の監視装置が無数に飛び交っていた。

 そのすべてが“異端侵入”を阻むための、鉄壁の布陣だった。


 「だが、内部構造は把握している」


 ジェイドが懐から巻物を広げる。そこには“影の神殿”で手に入れた、塔の内部設計図が詳細に記されていた。


 「地下の魔力循環路から侵入すれば、結界の影響を受けずに中枢部まで到達できる」


 「でもそこは……“封呪層”。下手をすれば、記憶や存在そのものが削られるわよ?」


 ミュリナの警告に、セリナが険しい顔を見せた。


 「だからこそ、俺が行く」


 ルークスの声には、一切の迷いがなかった。


 「俺の“概念干渉”能力なら、封呪層の影響も最小限に抑えられる。もし俺が侵入に成功すれば、中枢魔導核に直接アクセスして、真なる聖典データを流し込めるはずだ」


 彼の言う“概念干渉”――それはルークスが隠し続けてきた、異世界転移の際に得た最も危険で、そして最も汎用性の高い能力。


 存在の定義そのものを一時的に上書き・回避するという、人智の域を超えた干渉能力だ。


 「私も行くわ」


 ミュリナが前に出る。


 「もしも中で何かあったとき、あなた一人じゃ……」


 「駄目だ。お前には、塔外で“告知映像”の魔法陣を展開してもらう必要がある。塔を掌握した瞬間、即時に放送できる状態を作ってくれ」


 「……わかった。任せて」


 ミュリナはうなずきながらも、悔しげに唇を噛んだ。


 一方、セリナとジェイドはそれぞれ指揮隊を率いて、塔周辺の陽動と侵入口の確保に回る。


 「予定時刻は、今からちょうど六十秒後」


 ジェイドが時間確認の結界を閉じる。


 「……一度でも足を踏み外せば、即座に存在崩壊する空間だ。ルークス、お前がやるべきことは……」


 「決まってる。“真実を、世界に届ける”」


 ルークスは一つ息を吐くと、黒衣のフードを深く被り、闇へと溶け込むように塔の裏手へ消えていった。


 その背中に、誰もが言葉をかけることはなかった。


 彼は今、自らの命と存在を“概念の向こう”に賭けている。


 ――地下封呪層、第零環へ到達。

 視界が揺れる。現実と非現実の境界が溶け合うような錯覚。時間の流れすら歪み、思考が別の人格に取って代わられるような感覚に、ルークスは意識を必死に繋ぎとめる。


 「俺は“俺”であり続ける……!」


 その叫びと共に、彼は魔力干渉を起動。

 “存在干渉の式”を三重展開し、自身を「存在せぬ者」として世界から一時的に隔離した。


 重層構造の結界を突破し、ようやく辿り着いた塔の心臓部――“魔導中枢核”。


 それは、白銀の球体に無数の魔術言語が絡みつき、蠢く巨大な“思考体”だった。


 「――今だ!」


 ルークスは背負っていた封印書庫から、『始源の聖典』の魔導写本を取り出し、強制的に中枢へ流し込む。


 瞬間、塔全体が共鳴音を響かせた。


 「魔力信号、変質! 記録領域に“非正規聖文”が侵入してる!」


 「制御不能!? 全塔システム、再起動が始まって――」


 中央制御室が騒然とする中、ルークスは歯を食いしばり、叫ぶ。


 「ミュリナ、今だ――!」


 塔外、ミュリナが展開していた巨大魔法陣が発動。

 魔導塔と王都全域の放送網がリンクし、音と映像が一斉に空へ響き渡る。


 『……これが、“始源の教え”です。すべての命は等しく、そして共に生きるもの――』


 王都に、いや王国全土に響き渡る“真なる声”。


 それは、千年の闇に沈んでいた光だった。


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