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第45話 第1節「真実の伝播と揺らぐ秩序」

王都の中心、かつて“神の声”が響くとされた真聖堂の鐘が鳴り終わってなお、その余韻は街全体に静かに広がり続けていた。


 だがその響きは、民にとって“祈り”の象徴ではなかった。

 それは――変革の合図だった。


 「……これは、何の合図だ?」


 「聖典の改ざんが……? まさか」


 「見ろ、あの旗印……!」


 真聖堂の尖塔に掲げられていた教会の紋章は、すでに焼け落ち、代わりに白地に黄金の“開かれた眼”の印が翻っていた。それは、旧教会が“異端の象徴”として葬ったとされる、始源の信仰の証。


 ルークスたちが用意していた“最後の一手”――真実を伝える手段が、いま動き出す。


 「各地の神殿に、“真なる教義”の写本が送られたわ。魔道通信を利用して、すべての大司教に同時に送信された記録映像も」


 ミュリナが静かに告げる。


 その映像には、“影の神殿”で発見された『始源の聖典』の内容が収められている。神の真の言葉、そしてそれを隠蔽した教会上層部の所業。さらに、ミュリナ自身が“真なる聖女”として語る姿も記録されていた。


 「情報は止められない。もはや誰も、これを“なかったこと”にはできないわ」


 かつて怯えていた彼女はいなかった。

 立っていたのは、信じる真理を胸に抱く“覚悟を決めた聖女”だった。


 一方――


 王都の貴族街では、すでに混乱が始まっていた。


 「なぜだ! なぜあの鐘が鳴った!?」


 「聖堂が……制圧された!? いや、まさか……“審問官長”カリス様が倒れたとでも?」


 「情報を遮断しろ! 聖典を焼け! 映像記録を妨害する魔術部隊を召集しろ!」


 中央教会の高官たちは、次々に魔術塔へ通達を出し、混乱の封じ込めを図った。だが、すでに“真実の映像”は王都の各魔道端末に届き、民衆は目を見開いていた。


 「……こんな……教会が、真実を……?」


 「じゃあ俺たちは、ずっと嘘を信じさせられていたのか?」


 「うちの弟も、“異端者”ってだけで連れて行かれたんだぞ……!」


 やがて、怒りと悲しみが街の空気を濁らせていく。

 声は連鎖し、波紋のように広がり始めた。


 「このままじゃ……暴動になるわ」


 セリナが眉をひそめる。彼女は元・教会の巡回騎士団長であり、民の信仰心理を誰より理解している。


 「理を失った怒りほど、怖いものはない」


 「だからこそ、俺たちは“伝える”だけじゃ駄目なんだ」


 ルークスは言う。


 「正しい情報と、正しい秩序を同時に示さなければ、この世界は“混乱”で終わる。暴かれた偽りの上に、新たな支柱を築かなきゃならない」


 「でもそれは……“新しい教会”を立ち上げるってこと?」


 ジェイドの問いに、ルークスは即答しなかった。

 だが、その沈黙が示していたのは、明確な“意志”だった。


 ――かつて神が与えようとした“自由と共存”の教えを、人々に取り戻させる。

 そのために、“真の拠点”が必要だ。


 「まずは、次の目標だ。“転写の塔”を押さえる」


 それは、王国全土に“聖文”を複製・配布する中心となる場所。


 ここを制圧し、“真理の文書”を大量に流通させれば、もはや教会は情報統制できなくなる。

 同時に、混乱する民に“何を信じるべきか”の道を示すことができる。


 「……反撃が始まるわね。王家も、教会の旧派も、黙ってはいない」


 ミュリナの声は静かだが、覚悟がにじんでいた。


 ルークスは彼女と目を合わせ、静かにうなずく。


 「全部受けて立とう。真実が希望になる世界のために」


 ――こうして、彼らは“真理の第二段階”へと踏み出した。


 混乱と再編の嵐が吹き荒れる中で、“次なる戦い”の幕が、いま静かに上がった。

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