第44話 第3節「審問決着と決意の鐘」
崩れかけた“真聖堂”の中央、白銀の巨像が咆哮をあげる。
――それは、人の手によって造られた“神”。
神の名を騙り、信仰を利用し、無垢なる人々の心を支配するための象徴。
「ルークス、今!」
ミュリナの叫びに応え、ルークスは魔力の干渉構造を一気に書き換える。掌に生まれた球状の光が、ねじれ、拡張し、空間そのものを飲み込むように形を変える。
「――概念干渉魔術式・最終展開」
「“識別崩壊域(ディファイン=ゼロ)”!」
空間が一瞬静止したかのような感覚の後、聖骸機(セント=レギオス)の巨体にひびが走る。その内部構造――制御核と聖魔素タンクに干渉した術式が、敵の“存在属性”を曖昧にする。
「なに……っ、存在定義が……崩れる……!?」
カリスの悲鳴が響く。彼と“聖骸機”は連結されており、核が崩れればその魔力循環も断たれる。ルークスはさらに畳みかけた。
「次で終わらせる!」
彼の後方からジェイドとセリナが援護に走る。ジェイドの雷撃が展開装甲を破壊し、セリナの風刃が狙い澄ました箇所へと突き刺さる。
「風断――“真裂一閃”!」
音もなく聖骸機の胸部が爆ぜ、そこにあった“神の心臓”が砕け散った。
ドォン――!
聖骸機が崩れ落ち、地を揺らす。
同時にカリスの全身に、焼けつくような逆流が走る。
「ぐ、あああああッ……!」
ルークスがゆっくりと歩み寄り、剣を抜いた。
「貴様の審問は、ここで終わりだ。“神”の名を汚し、人々の信仰を利用した咎――俺たちが裁く」
カリスはなおも口を開く。
「……民は……導かれることを望んだ……我らは、それに応えただけ……っ」
「だとしても、導く者が“虚偽”であってはならない」
ミュリナの言葉は静かだった。
だが、それは真に信仰を知る者の、断固たる祈りでもあった。
カリスは崩れるように膝をつき、祭壇の片隅に倒れた。
その身体からは、もはや神の光は宿っていなかった。
――静寂が訪れる。
焼け焦げた神殿に差し込む陽光が、崩れた神像と、倒れ伏す“教会の象徴”たちを照らす。
「……終わった、のか?」
ジェイドの呟きに、誰もすぐには答えなかった。
だが、その沈黙の中で、“鐘の音”が鳴り響く。
ごおぉん……ごおぉん……。
それは、王都に数ある教会の中でも“真聖堂”だけが持つ、儀式用の大鐘。その音は、民草に“聖なる変化”が訪れたことを告げる合図でもある。
「鐘が……鳴った」
ミュリナが涙ぐむ。
「かつて聖女たちが民を導こうとした時、鳴らされるはずだった鐘。でも、その日を教会は“異端の日”とした……けれど今、この鐘は本当の意味で鳴ったのね」
その鐘は、偽りの神の終焉と、真実の目覚めの象徴。
――そして、物語は“信仰と真実”の新たな章へと進む。
ルークスは拳を握った。
「まだ……終わらない。教会の支配はここだけじゃない。だが、今日ここで、“真理は消えない”ということを示した」
「これからが始まり、ということね」
ミュリナが隣に並び、彼を見上げる。
彼らの歩む先にはまだ、数多の困難がある。
だが、その一歩は確かに“希望”を宿していた。