第43話 第4節「宣戦布告と希望の灯」
“封印装置”を打ち破った瞬間、ルークスの体内で何かが静かに共鳴した。まるで彼の存在そのものが、“始源の言葉”に応えたかのように。視界の端に、薄く淡い紋章が浮かぶ。それは誰もが知らない、しかし神代の伝承に語られる“忘却された印章”――
だが、それに気づいていたのは、彼自身のみだった。
「急ぐわよ。教会はもう動いてる。あんたたちを“信仰の敵”として世界に告げる準備を始めてる」
“囁かれし者”が沈痛な声で言った。
「すでに“真聖堂”への入り口は封鎖されたわ。正面突破はまず不可能。……だが、ひとつだけ“例外”がある」
ルークスが眉をひそめる。
「例外?」
「聖堂の南区画。王宮と接続する“蒼月の地下水路”。かつて王家の影の者たちが使っていた緊急通路よ。もう何年も封鎖されたままになっているけど……使える可能性がある」
セリナがうなずいた。
「かつて王族に仕えていた家の記録に、それが記されていたわ。父は“旧王派”だったから」
「だが……水路には“瘴気”が残っている。古い時代の“異端結界”も張られている可能性がある。中で何が起きるか……」
ジェイドの懸念に、ルークスは静かに答える。
「それでも進むしかない。もう、誰も引き返せないんだ」
彼らが聖言の回廊を後にしたとき、すでに王都の上空には“告解の光輪”が出現していた。
それは、王国全土に向けた“信仰戦争の始まり”を告げる合図だった。
***
王都の一角に、信徒が集まる広場がある。かつては聖歌が響き、祝福が交わされた場所。だが今、そこに立つのは、威圧的な白い軍勢――教会直属の精鋭部隊《白刃の矛》。
中央の演壇に立った男は、厳粛な声で告げる。
「我らは今より“福音戦線”を発動する。反教会勢力の首魁、異端者ルークス・アークラウド。その名を以て告解を始め、王都の全域に“信仰の灯”をもたらさん!」
群衆はざわめき、そして静かに……異様な沈黙に包まれた。
***
一方そのころ、“蒼月の地下水路”の入り口に立ったルークスたちは、厚く閉ざされた鉄門を前にしていた。
「これを開く鍵は……“正当なる血統の声”だけ。つまり、王族の紋章と同調する魔力が必要」
セリナが額に手を当て、静かに呪文を唱える。
彼女の体内に眠っていた“旧王家の魔素”が門に共鳴し、次の瞬間――
ゴン……ゴゴゴゴ……
巨大な鉄門がきしみながら開かれる。
「……行こう。“真実の教え”を届けるために。俺たちはまだ、“語り部”たりえていない」
ルークスのその言葉に、仲間たちはうなずく。
「たとえ、世界中の信仰が敵に回っても」
「私たちは、もう怯えない」
「この手で、本当の“祈り”を届けるために」
影の中、彼らの瞳だけが確かに燃えていた。
その一歩が、王都に眠る“神の偽り”を暴き、そして新たな時代を拓く扉となることを、彼らはまだ知らなかった――