表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/175

第43話 第2節「試練と魂の対話」

古の“真言の試練”は、単なる魔術判定ではなかった。


 それは精神と魂に刻まれた“信仰の根源”を問い、その者が抱く理想、矛盾、記憶、苦悩――すべてをさらけ出し、答えを強制する“対話の儀”である。


 魔法陣が光を帯びた瞬間、ルークスの視界は白一色に染まった。


 身体の感覚が消える。地面も、空も、時間さえも消失したような“無の空間”。


 その中に、かすかな声が届いた。


 ――なぜ、戦う?


 「……それが、生き残るためだからだ」


 ――ならば、なぜ“真実”を広めようとする?


 「誰かが、それを望んでいたからだ。過去に、無念に散った人々がいた。教義に裏切られ、迫害され、命を奪われた者が……」


 空間に、炎に包まれた村、磔にされた異端者、泣き叫ぶ幼子の幻影が浮かぶ。


 ――その記憶は、お前のものではない。なぜ重ねる?


 「……俺には力がある。過去に力を持たなかった者たちの無念を、再び繰り返させるわけにはいかない」


 その言葉に呼応するように、空間が揺れ、今度はルークス自身の過去が浮かぶ。


 現代日本。会社に縛られ、心を擦り減らし続けた彼の姿。理不尽な命令、終わらない残業、崩れゆく身体。そして、最期の瞬間――何も報われないまま、光の中へ消えた日。


 ――“お前自身”のために戦っているのか?


 「違う。……いや、今は違う。だが最初は、きっと、逃げたかっただけだった。世界から、責任から、自分から」


 ルークスは立ち尽くす。

 しかし、その肩に――ふと、ぬくもりが触れた。


 「……あなたが、そうやって迷い、苦しみ、選んできた道を……私は、尊いと思う」


 ミュリナの声だった。彼の心象に、彼女の姿が重なる。

 恐らくは“試練の魔術”が引き出した、ルークスの心に刻まれた“他者との絆”。


 「あなたが私を見つけてくれたように、今度はあなたが、自分を信じてあげて」


 ――信じる、か。


 その言葉が胸の奥に落ちたとき、白い空間に新たな光が灯った。


 それは、“影の神殿”で見た聖女の幻像と同じ、蒼い輝き。


 ――では問おう。

 “お前の信仰は何だ?”

 “神か、民か、正義か、それとも己か”


 「俺の信仰は――“選べなかった者”たちの未来だ」


 「持たざる者にも、声を。力なき者にも道を。名もなき者にも、希望を」


 その瞬間、空間が砕けるように崩れ、光が奔った。


 気がつけば、ルークスは“聖言の回廊”の祭壇前に立っていた。


 ジェイドとミュリナ、アルヴァが見守る中、魔法陣は静かに消えている。


 「……突破、したのか」


 アルヴァが微かに笑みを浮かべた。


 「“真言の試練”は、ただの資格判定ではない。魂の在り方そのものを問う。……お前がそれに応えたということは――もう、誰も否定できん。お前は、“語るに足る者”だ」


 ルークスは無言で頷いた。心の奥に、確かな手応えが残っていた。


 だが同時に、その重みも背負った。


 「この言葉は、刃にもなる。世界を変える力を持つと同時に、無数の憎しみをも生む。だが、それでも」


 彼は、祭壇に置かれた真なる聖典を手に取った。


 「――俺は、語る」


 「偽りの光ではなく、すべての者に等しい、真実の光を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ