表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/175

第41話・第5節「報復と覚悟」

神殿が崩れ落ちる轟音を背に、ルークスたちは黒殻街の裏路地へと姿を消した。夜の帳が王都に降りる中、追手の気配はまだ絶えず、空気は緊張に満ちていた。


 「このまま逃げ続けても……いずれ包囲されるわ」


 セリナが、息を整えながら言った。衣服は乱れ、頬に小さな切り傷が浮かんでいる。それでも瞳の奥には、諦めではなく闘志が燃えていた。


 「……逃げないよ」


 ミュリナが静かに首を振る。手には、崩れゆく神殿から救い出した《始源の聖典》の写本が握られていた。


 「わたしたちは“真実”を手に入れた。なら……もう一度、この世界に問い直す必要がある。“信仰”って、本当に人を救うためのものだったのかって」


 ルークスは彼女を見つめ、その背に確かな覚悟を見た。


 あの森で出会った少女は、もういない。今ここにいるのは、己の信念で未来を選ぼうとする女性だった。


 「だが、動くには時間が必要だ。王都全体が警戒態勢に入ってる。公に行動すれば……すぐに粛清される」


 ジェイドの言葉は冷静だった。だが、その声音には焦りと怒りが滲んでいる。


 「仲間が何人もやられた。あいつらはもう、ただの聖騎士じゃねぇ。“真実を守る”ために人を殺す正義を振りかざしてるだけだ」


 「でも、それでも信じたいの。まだ、“耳を傾けてくれる人”がどこかにいるって」


 ミュリナの声は震えていない。強さがあった。


 ルークスは深く息を吸い、視線を空に向けた。夜空には月が昇り、薄雲が光を滲ませていた。


 「……やるなら、徹底的にやる。中途半端な真実なんて、誰も信じない。戦う覚悟があるなら、俺も全力で協力する」


 「ルークス……」


 「だがそのためには、“反撃の舞台”が必要だ。王都の中央、《真聖堂》。そこが教会の象徴であり、権力の心臓部だ。もしあそこで真実を示せれば――」


 「全てが変わるかもしれない」


 ジェイドがうなずいた。


 「真聖堂は警備が厳しい。でも、ひとつだけ手がある。“表の招待”を使うんだ」


 「招待?」


 「そうだ。王都では、三日後に“神暦の大祝祭”が行われる。聖女候補や神官、貴族たちが一堂に集う祭典だ。そこに紛れ込めば、真聖堂の中枢まで辿り着ける可能性がある」


 「でも、どうやって?」


 「俺たちには“裏の協力者”がいるだろ?」


 ジェイドが口元を歪めた。


 その名は――“マグナ・ヘルツ”。黒殻街の情報屋にして、かつて“王都の影”と呼ばれた元貴族の密偵。


 「マグナは教会に恨みがある。信頼できるとは言わんが、こっちの情報と引き換えに“潜入手段”を提供してくれるだろう」


 「賭ける価値はあるわ」


 セリナが同意する。


 「じゃあ、準備を整えよう。次に動くときが、“すべてを暴く”ときだ」


 ルークスが立ち上がり、仲間たちを見回す。


 ミュリナは写本を抱き、セリナは魔術具の封を確認し、ジェイドは新たな剣帯を巻き直した。


 ――三日後。


 “真実”を告げる者として、彼らは王都の中心へと向かう。


 まだ夜は明けない。だが、その闇の中に確かに、一筋の光が走っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ