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第41話・第1節「真聖堂への帰還」

王都エルミネアは、静かにその朝を迎えた。だが、ルークスたちが踏みしめる石畳の音だけが、凍てついた空気の中に不気味に響いていた。


 彼らが戻ってきたのは、あの日、教会の尖兵に追われ、街を後にしてからおよそ二十日ぶりのことだった。


 「変わらないな……見た目は」


 ルークスが呟く。だが、その目にはかつての警戒心とは違う、鋭い意志が宿っていた。


 王都の中心部に位置する「真聖堂」は、白亜の大理石で築かれた巨大な建造物だった。その尖塔は天を突き刺し、黄金の聖印が朝日に照らされて輝いている。


 だが――今、そこに映る光の正体が「偽り」であることを、ルークスたちは知っている。


 「本当に、やるんだな」


 ジェイドが隣で呟く。その拳には、細かく震えが走っていた。


 「もう戻れないぞ、これが始まったら」


 「もう、始まってるよ」


 ミュリナが言う。その瞳は、もはやかつての“追われる少女”ではなかった。彼女は“聖女ミュリナ”として、己の使命を理解している。


 「真実を世界に伝える。――それが、あたしの役目」


 そして、セリナが無言で頷いた。彼女は情報拡散のため、すでに複数の情報ギルドと秘密裏に連携しており、地下印刷所へのデータ転送も完了している。


 「“始源の聖典”と“神罰機構の記録”、すでに複製を数十通り作ってある。万が一、ここで倒れても……真実は止まらないわ」


 「よし」


 ルークスは、黒の外套の中から光る球体――“神々の議事録”を取り出す。それは今や、彼らの全てだった。


 そして彼は、聖堂の巨大な門に手をかけた。


 「行こう。嘘を祀る神殿に、本物の真実を届ける」


 扉は、軋む音と共に開いた。中に待ち構えていたのは、数十の武装した聖騎士たちと、教皇直属の魔導官。それはまるで、来訪者を迎え入れる“歓迎の儀”のようでもあり――処刑場のようでもあった。


 「異端認定者、ルークス=イグニスとその一派。ここで“神の裁き”を受けてもらおう」


 魔導官のひとりが、冷たく宣言する。その瞳には、信仰に酔った者の狂気が宿っていた。


 「神の裁き……? ならば、その“神”の正体を今ここで暴いてやる」


 ルークスが一歩、前に出る。


 その背には、聖女ミュリナ。剣士ジェイド。諜報員セリナ。そして、既に失われた多くの声と想い――


 「俺たちの声を、受け止めてみろ」


 真実の開示を賭けた戦いが、いま始まる。


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