第40話・第2節「神罰機構の崩壊と真理の解放」
空間に漂う魔力は、まるで濃霧のようだった。五重結界の余波に焼かれた大理石の床から、淡く白煙が立ちのぼる。
だが、ルークスは立っていた。
掌に集束した青白い魔力は、まさしく「演算された極限」――全魔術式の根源を解析し、最適化された一撃。
《終極演算魔術式:レイ・オブ・イコールコード》
その一閃は、神罰機構の六本の腕を順に断ち切った。大剣、戦斧、鎖鎌――全ての武装が光とともに霧散し、仮面の奥にあった“魔核”が露わになる。
「今だ、ジェイド! ミュリナの支援を!」
「了解ッ!!」
ジェイドはミュリナから回復魔法による強化を受け、全身を覆う魔力障壁を纏いながら跳躍する。
「一閃――“断魔の剣”ッ!」
その大剣が振り下ろされる刹那、神罰機構の魔核は微かに光を変え、何かを起動しようとした。
――だが、遅い。
断魔の刃が魔核を斬り裂き、内部から放たれていた光の奔流が、まるで魂の悲鳴のように辺りを染めた。
「終わった、のか……?」
セリナが息を呑む。
魔像は崩れ落ちた。重厚な躯体が砕け、やがて砂のように消えていく。音すら出さず、静かに、静かに。
「……いや、まだだ」
ルークスは魔核のあった場所に歩み寄り、残滓の中から“光る球体”を拾い上げる。それは、神罰機構が保管していた“真の記録”だった。
「これは……」
球体に触れた瞬間、全員の頭に直接、音が流れ込んできた。
『――神々の議事録・最終断章――』
そこに記されていたのは、信仰の裏にあったもう一つの真実だった。
かつてこの世界を創った神々は、“信仰”を通じて人間に試練を与え、成長を促そうとしていた。しかし、ある神――“選定者”は、人間の自由意思を否定し、特定の“適合者”のみを導くべきだと主張。これが、信仰の分裂を招いた。
「つまり、今の教会の教義は、その“選定者”の思想を受け継いだもの……?」
「その通り。自由と共存を是とする旧神の声は消され、“優越と支配”の神話だけが残った」
“囁かれし者”が言葉を継ぐ。
「この記録を王都の“真聖堂”で公開すれば、教会の根幹は揺らぐ。だが……」
「我々が“異端”として追われるのも確実だ」
ジェイドの言葉に、誰も反論できなかった。
だが、ミュリナがそっとルークスの手に触れ、囁くように言う。
「でも……このまま、真実を閉じ込めたままでは、また誰かが嘘に苦しむよ」
「……ああ。だから、届けよう」
ルークスは球体を懐にしまい、静かに立ち上がる。
「神すら歪めた“真実”。それを暴くのは、俺たち人間の仕事だ」
光なき神殿で、彼らの決意はひとつに結ばれた。
崩れかけた壁の向こう、微かに見えたのは――夜明けの兆し。
長く暗い戦いの果てに、ようやく届いた“本当の希望”の光だった。