第39話・第3節「真実の記録庫と中央聖印」
真聖堂――それは王都最大の信仰施設にして、中央教会の象徴。その中心には、誰も立ち入ることを許されない“封印領域”が存在する。かつて歴代教皇たちが真理を封じ、偽りの教義を築くために秘匿した場所――中央聖印管理庫。
ルークスたちは、白炎のレミエルを退けた勢いのまま、聖堂奥深くの禁域へと進入していた。
「……ここが、中央聖印の管理庫か」
巨大な回廊を抜けた先、異様な静寂に包まれた空間が広がっていた。高く積み上げられた書架、緻密な魔術障壁、空間をねじるような気配。そして、その中心には、巨大な“魔力結晶柱”が存在していた。
「見て、あれ……!」
ミュリナが指さす先には、聖印の模様が刻まれた台座があった。そこには幾層にも術式が重ねられ、外界との接触を絶つように“遮断の封印”が施されていた。
「これは……概念魔法による制御機構だな」
ルークスが目を細め、構造解析を始める。
「この台座こそ、“教会の本質”が眠る場所だ」
“囁かれし者”が静かに口を開いた。
「中央教会は、神より与えられた『聖印』の原初構造を独占し、選民思想に都合のいい“カスタマイズ”を施してきた。その情報が、ここに保管されている」
「つまり……ここに触れれば、教会の欺瞞を証明できるんだな」
ジェイドが言う。
「ただし、触れるには“資格”がいる。なにせここは、“神の言葉”を記録した場だ。下手に干渉すれば、存在そのものが消される恐れもある」
「なら、やるしかないな。俺が、鍵を開く」
ルークスは躊躇なく台座に手をかざす。その瞬間、空間が反転した。
――否、“精神領域”に引き込まれたのだ。
彼の視界に広がったのは、光と影が交錯する空白の世界。そしてその中心に、一体の影が立っていた。
「よく来た、選ばれし者よ」
それは、教会によって隠蔽された“原初の聖印”そのものだった。
「この記録庫は、記録であると同時に、“試練”でもある。ここで真実を知るには、神の残した“問い”に答えねばならない」
ルークスの精神が試される――教義に関する記憶の断片、戦争、粛清、歪んだ教義、民の苦しみ。そのすべてを目の当たりにしながら、彼は答えを模索する。
そして――
「俺は、支配ではなく共存を選ぶ。すべての種が、“等しく歩める道”を創りたい」
その瞬間、精神空間が光に包まれた。
――認証完了。開示開始。
現実世界へと意識が戻ったとき、中央聖印の台座が静かに光を放っていた。
次の瞬間、結晶柱の内部から“記録映像”が展開される。それは、千年前の神託、教会設立の真相、そして歴代の教皇による文書改竄の様子――。
「これが……すべての“真実”か……!」
ミュリナが震える手で胸を押さえた。ジェイドは歯を食いしばりながら呻く。
「……これが表に出れば、教会は終わる。いや、それだけじゃない。王権にも波及するぞ……!」
「それでも、やるしかない」
ルークスはそう断言した。
「この記録を持って、王国議会、そして世界中に告げる。偽りの聖印に支配された民を、解放するんだ」
“囁かれし者”が静かにうなずく。
「だが、その前に……この記録庫を守る“最終防衛機構”が目を覚ます」
床が震え、結晶柱の奥から機械仕掛けの魔像が姿を現す。
「来たか、“審判の番人”……!」
全員が武器を構え、臨戦態勢に入る。
記録を守るため、真実を掴むため――彼らは最後の試練へと挑む。