第39話・第2節「白炎のレミエルとの激突」
聖堂上空を覆う白き炎が、天からの裁きのように降り注ぐ。
〈白炎のレミエル〉――教会七耀の一人にして、“光の審判”を体現する最強の聖騎士。その姿が宙を舞い、眩い残光を描きながら、ルークスへと急襲を仕掛けた。
「その身が“神の光”に耐えうると信じるなら、ここで示してみろ……!」
光の刃が唸り、空間そのものを裂く。だが――
「来い、偽善の化身。こちらこそ、その光の価値を試させてもらう」
ルークスの足元に展開された魔法陣が、周囲の魔力を吸い上げ、精製し、瞬時に防御障壁と化す。
白炎と純魔力の衝突。炸裂音と爆風が広場を覆い、騎士団の一部が吹き飛ばされる。
「くっ……なんだこの力……!」
ジェイドが唸る。すでに彼も戦闘態勢を整えていたが、レミエルの放つ“聖なる圧”は、尋常の域を超えていた。
「これが……神の代行者か……!」
セリナも牙を食いしばり、空間の揺らぎに耐える。ミュリナはすかさず治癒結界を展開し、味方を守るように前へ出た。
だが、レミエルはその動きを見逃さない。
「……異端聖女。お前の存在こそが、この歪みの根源だ」
光の槍がミュリナに向けて放たれる――
「甘いぞッ!」
割り込むようにルークスが掌を突き出し、風属性の逆位相衝撃波を直撃させる。光の槍は逸れ、聖堂の柱を穿ち、爆発四散した。
「俺の仲間に手を出すな。相手は俺だ」
ルークスの表情には、一片の動揺もない。
彼の背後に、魔力の残響が波のように広がっていく。概念魔法による干渉操作――それは「重力」の局所改変。
足元の大地が裂け、ルークスの身体が斜めに傾く。
「“崩重領域:位相零点”――行くぞ」
瞬間、ルークスの姿が消えた。
次に現れたのは、レミエルの背後。しかも――
「何……!?」
レミエルが振り返るより早く、魔力を纏った拳が彼の胸を撃ち抜いた。
光の爆発が再び起こる。が、それでもレミエルは倒れない。
「……なるほど。貴様の力、侮っていた」
レミエルの鎧が砕け、内から黄金の羽根が舞う。彼の姿が変容する――神聖属性を限界まで引き出す、〈解放形態:聖焰〉。
翼を広げたその姿は、まさしく“天の戦士”そのものだった。
「ならばこちらも、真の力で応じよう」
ルークスもまた、深く息を吐き、瞳の奥が蒼く輝く。彼の魔力が暴風のように放出され、周囲の空間が音を失う。
「“真理視界”……発動」
全ての魔法構造、術式の流れが彼の中で可視化される。レミエルの聖光すら、その輪郭を持って理解される領域へと至る。
「光を――打ち消す」
発動されたのは、ルークスの奥義のひとつ。相反属性を編み合わせ、対象魔力構造を解体する“複合崩式”。
神域級の光が、瞬時に無へと還る。
そして、その一瞬の隙を突いて――
「終わりだ」
ルークスの拳がレミエルの面頬を撃ち抜き、地面に叩き落とした。
爆音。煙。沈黙。
聖堂の広場が静寂に包まれ、騎士団すらも動きを止めていた。
ルークスはゆっくりと歩み寄る。そして、地面に膝をついたレミエルに問いかける。
「お前の信じた“光”は、誰のためにあった?」
レミエルは、うつむいたまま答えた。
「……知らなかった。俺は……ただ、教えの中で正義をなしたつもりだった」
「なら、これからは“真実”のために生きろ」
ルークスが背を向けた瞬間、ミュリナが駆け寄ってきた。
「……ルークス、大丈夫?」
「問題ない。だが……これからが本番だ」
ルークスの視線の先――真聖堂の奥。そこには、教会の“真なる中枢”が待ち構えていた。
次なる戦いに向け、仲間たちは静かに、しかし確実に前へと進み始めた。