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第36話・第3節「崩壊と解放の夜明け」

王都の空が、赤黒い輝きを帯び始めていた。

 《神声演壇》の停止と、聖印システムの暴露――それは中央教会という巨大な支配構造に亀裂を走らせ、王都全域を混乱の渦に巻き込んでいた。


 「中央広場で暴動が発生! 民兵と正規軍の一部が衝突してます!」


 ジェイドの声が、聖堂の上階へと届く通信魔導板から響く。


 「市民の中には、“聖印”の制御から解放されて正気を取り戻した者たちもいます。ですが、逆に暴走状態に入った個体も……!」


 「そうか……“信仰の檻”を失って、自我が揺さぶられてる」


 ルークスは眉間にしわを寄せた。

 これまで人々は《聖印》を通じて“道徳”や“規律”すら外部から植え付けられていたのだ。長年の洗脳を解かれた結果、心の拠り所を失い混乱する者が現れるのも、ある意味では当然だった。


 「……けれど、俺たちが始めたことだ。最後まで、責任を持とう」


 セリナが隣で頷く。


 「大丈夫。今、各地で“目覚めた人”たちが、混乱の中で互いに手を取り合おうとしてる。“神の声”ではなく、“人の声”を聞きながら」


 その言葉に、ミュリナがそっと微笑む。

 彼女はかつて、信仰に囚われ、弱さに縋りながら生きてきた。だが今の彼女は違う。

 ――彼女は、“聖女”としてではなく、“ミュリナ”として、誰かの希望となる決意を胸に抱いていた。


 「王都中心部から、最後の抑止力が来ますよ……!」


 ジェイドの声に続いて、聖堂の天井が砕け、漆黒の翼を広げた存在が舞い降りてきた。


 「“神喰らい”のゼファロス……!」


 それは、教会が最後の切り札として温存していた“禁忌兵器”――神霊融合体。

 古の魔神と聖なる存在を融合させ、教会の意志を強制的に実行する戦闘兵器。全長五メートルを超える異形の躯体が、禍々しくも神々しい光を放っていた。


 「選民思想の否定。それは、神の否定。よって汝らは消去対象」


 無機質な声と同時に、光槍がルークスへと放たれる。

 だがルークスは、寸前でそれを受け止めた――否、“捻じ曲げた”。


 「概念転位、《攻性変質》――力の方向を、意志で再構築する」


 光が歪み、ゼファロスの胸元へとねじ込まれる。


 爆発。


 だが、それでも倒れない。ゼファロスの外殻は神性と魔性の複合体。“存在の確定”そのものが二重化されており、通常の攻撃では完全消滅しない。


 「ならばこちらも、すべてを賭ける!」


 ルークスの背後、ミュリナが“始源の聖典”を掲げる。

 その光が彼女の身体を包み、古の“原始コード”が起動する。


 「信仰とは、“誰かに従うこと”じゃない。“誰かを想い、選ぶこと”……!」


 ミュリナの詠唱と同時に、聖堂全体に純白の光が満ちた。


 「コード展開――《共鳴記憶・相互接続型律動術式》!」


 光はルークス、セリナ、ジェイド、そして王都にいる“目覚めた者たち”全てへと繋がっていく。


 「一人では叶わなくても――皆でなら、越えられる!」


 ルークスが叫び、全員の“意志”が、ひとつの魔法陣として収束する。


 「ゼファロス! お前は“信仰の暴走”そのものだ! この世界に、もう必要ない!」


 最終魔術――《零神解体式》。


 概念、神性、魔性、物理――全ての位相を同時に破壊する構成式。

 ゼファロスの身体が悲鳴のような共鳴を上げ、崩れていく。


 「終わりだッ!」


 眩い光の中、ルークスの拳がゼファロスの“核”を穿った。


 静寂。


 そして、真聖堂の上空に初めて、真っ青な空が広がっていた。


 「終わったのか……?」


 「いや。始まったんだ。“信じる力を取り戻した人々”の、新しい時代が」


 ミュリナが、微笑んでそう呟いた。


 この瞬間から、ルークスたちの戦いは“王都解放”という大きな成果とともに、新たな局面へと突入していくことになる――。

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