表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/175

第35話・第3節「真なる神意の選択」

夜の王都。その中心に浮かび上がる崩壊しかけた召喚陣。その余波で空間に生じた歪みから、“それ”は出現した。


 巨大な翼。無数の目。口では表現できない存在感。それは“神”と呼ぶにはあまりに異形だった。


 「これは……まさか、“上位存在”そのものが……!?」


 ルークスは目を見開いた。召喚されかけていたのは、神々の座より堕とされた旧き存在、《災禍の記録者リメンブラ》――虚空に囁きを刻む存在。


 「まだ……完全には顕現していない! だが、このままじゃ!」


 ミュリナの詠唱が急き立てるように続く。彼女の張った防御結界は、今や熱と圧力で軋みをあげていた。


 「“それ”は喋ってない。だのに……頭に、直接――!」


 ジェイドが呻きながら頭を押さえる。


 《問い:この世界の理を誰が裁くか》


 意識の内に直接注ぎ込まれる声。冷たい知性と全知的無感情が入り交じる。


 「精神に……干渉されてる……!」


 ルークスは手を構えた。《深層遮断結界式》。己の記憶領域を遮断し、存在への介入を防ぐ古術式だ。


 しかし、その直後。


 《応答:“裁き”の資格、汝らにあるや否や》


 問いかけは続く。選別。それは人間を――いや、“命”という存在そのものを分類し、淘汰する意思だ。


 「……クソッ、“神”気取りが……!」


 カイロンが叫んだ瞬間、ルークスは踏み込む。

 目の前に広がる神域の中心へ。《リメンブラ》の投影核、残留存在の意識体。


 「なら、答えてやるよ。“神意”ってやつにな――俺の答えを、ぶつける!」


 ――《終律式・断罪のジャッジメント・ゼロ》。


 発動したのは、彼が古代神殿で手に入れた禁術中の禁術。神を模した存在へ、理を問う力を逆用する魔法。

 その力は、“問い”の回路を逆流させ、《リメンブラ》の構造意識に干渉する。


 《反応:汝は“定義”を壊す者》


 《汝の存在、観測値を超過――再定義:神殺しの端緒》


 光が爆ぜた。闇が軋んだ。そして、虚空の中枢から、赤黒い流体が炸裂した。


 「まだだッ――終わらせてたまるか!」


 ルークスは、自らの意識を魔法陣へとぶつける。術式干渉の最終段階。彼の周囲に旋回する光の環は、十二重の領域を作り上げる。


 そこにミュリナが声を上げた。


 「ルークス、リンクさせて――私も、祈る!」


 彼女の掌がルークスの手を包む。微かな震え。それは恐怖ではなく、信頼の証。


 「この世界が間違ってるなら――正しく在れる道を! 誰かじゃない、私たち自身で、選び取る!」


 ――《同調式・意志の結晶体コード・リンク》。


 二人の心が、理の世界に橋をかけた。


 《反応:再解析開始……拒絶値、上昇中……構造崩壊まで、3、2、1――》


 光が弾け、虚空の召喚陣は完全に崩壊した。

 “リメンブラ”の残響は風に溶け、神に似た影は消え去った。


 残されたのは、ただ静かな王都の夜だけだった。


 ルークスは膝をつく。力を使い果たした体は、重く、痛い。

 だが、彼の隣にはミュリナがいた。微笑みすら浮かべながら、彼の手をしっかりと握っていた。


 「やった……ね」


 「……ああ」


 その瞬間、空が微かに白み始める。

 夜が明ける。けれど、それはただの夜明けではなかった。


 “偽りの神の声”を打ち破り、選び取った“本物の意思”による夜明けだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ