表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/175

第35話・第1節「神託の反響と偽りの天啓」

王都中心部に位置する“大聖堂”では、かつてにないほどの緊張感が漂っていた。


 荘厳なステンドグラスが射す光の下、中央演壇に立つのは教会最高権威“審神者さにわ”ヴォルグ。彼の手には、“聖印の原典”と呼ばれる古文書が掲げられていた。


 「民よ、聞け。神は再びこの地に神託を授けた。我らが守るべきは選ばれし者。異端を赦してはならぬ!」


 壇上から放たれた声が、魔力を帯びて王都中に響き渡る。

 それは“魔声まごえ”と呼ばれる魔法拡声術であり、聴いた者の心に直接入り込み、思考を誘導する洗脳の手段でもある。


 「……まるで、神の声を装った操作だな」


 ルークスは、聖堂からやや離れた高台で光の広がりを見下ろしていた。隣には、フードを深く被ったミュリナと、無言のまま気配を殺すカイロンの姿がある。


 「奴らは今、民衆を“敵”の存在に集中させようとしている。信仰を疑う余地すら与えず、異端の“狩り場”に仕立てているんだ」


 ルークスの語気は低いが、怒りを抑え込んでいた。


 「でも、今はまだ手は出せない。……私たちの準備も整っていない」


 ミュリナは胸元の聖印をぎゅっと握る。

 “真の教え”を胸に宿す自分たちと、“偽りの神託”を拡散する教会。その構図は明らかだったが、民の心にまで届くには、証と信頼が必要だった。


 「それに……あれが問題だ」


 カイロンが指をさした先、聖堂の尖塔に出現した巨大な魔法陣。

 空間を縫うように浮かび上がる紋章は、旧約時代に神々が降臨した際に用いた“天界門”の術式だった。


 「まさか、本当に召喚する気なのか……?」


 「ええ。“偽りの神”をね」


 カイロンの言葉に、空気が凍りつく。


 「彼らは“神の降臨”という名目で、魔族の古き存在——“天災級魔神”を封印から解き放とうとしている。あたかもそれが、神そのものだと信じさせるために」


 それは、神の名を騙った“演出”だった。

 民は信じ、涙を流し、膝を折って祈るだろう。だがその“神”は、かつて無数の命を葬った滅びの象徴なのだ。


 「ルークス。あの儀式が完了すれば、もはや教会は止められなくなる」


 ミュリナの声は震えていた。だが、その瞳は強く、決意に満ちている。


 「……なら、阻止するしかない」


 ルークスはゆっくりと立ち上がる。

 彼の手には、神殿から持ち帰った“真なる聖印”があった。それは、失われた“原初の契約”を宿す聖具。


 「神託に神託をぶつける。偽りの天啓には、本物の祈りを」


 王都の夜空に、次なる戦いの兆しが刻まれる。


 歪められた信仰の果てに、彼らは“真実”を叫ぶための刃を研ぎ澄ませていた——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ