表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/149

第34話・第3節「封印の解放と神喰いの目覚め」

回廊に満ちていた静寂が、砕け散った。


 「——ミュリナッ!」


 ルークスの怒号と同時、審問官たちの放った光槍が封印装置へと殺到する。その中には“霊素崩壊式”と呼ばれる、魔素そのものを焼き切る術式も混ざっていた。


 だが、ミュリナの前に立ちふさがる影が一つ。


 「やらせるかよッ!」


 ジェイドの魔剣が閃き、五本の光槍を切り裂いた。魔力を吸収し、跳ね返す“歪曲結界”が一瞬で展開され、反撃の斬撃が審問官たちの陣形を崩す。


 「封印は……もう一層、あと一層なの!」


 ミュリナは震える手で聖印を掲げ、純白の祈りを捧げる。

 その声に、かつての少女の儚さはない。神に問うのではなく、自らの内なる“真実”と対話するような祈りだった。


 「神よ……私は、もうあなたを恐れない。たとえ世界が私を拒絶しても、私はここに在り続ける」


 祈りの光が、封印装置を満たす。

 それは温かく、穏やかで、しかし確固たる意志だった。


 ルークスは、封印装置の前へと駆け寄り、ミュリナの肩に手を添えた。


 「——最後は、俺が受け取る」


 その言葉とともに、封印の最終層が砕けた。


 世界が、震えた。

 空間が歪み、回廊の壁が軋みを上げる。


 そして、現れたのは……“人の姿をした何か”だった。


 漆黒の外套に身を包み、目元を覆った仮面をつけた青年。

 だがその周囲には、空間を歪ませるほどの魔素と霊圧が渦巻いている。


 「我が名は……“カイロン”。かつて神に見捨てられ、封じられし者」


 その声は深く、しかしどこか悲しげだった。


 審問官たちは一斉に退き、魔導符を構える。だがカイロンが一歩踏み出すと、床に刻まれた封印陣が光り、審問官たちの魔術が暴走し始める。


 「こ、こいつ……術式を、直接侵蝕して……!」


 叫ぶ間もなく、数人の審問官が魔力の逆流で倒れた。


 「やめて……彼は、まだ敵と決まったわけじゃない!」


 ミュリナが叫んだ。

 カイロンは、彼女の方へと視線を向ける。


 「お前は……“あの日の祈り”を、受け継ぐ者か」


 「え……?」


 「かつて、この封印装置に祈りを捧げた者の中に、一人……“私を赦した少女”がいた。お前の祈りは、あの時の彼女と……同じ匂いがする」


 ミュリナは言葉を失った。

 封印の中で、彼はすべてを感じていたのか。憎しみも、恐れも、そして……祈りの温もりも。


 「では問う。お前たちは、この歪んだ世界を変えたいのか? 神を否定し、信仰を再構築する覚悟があるのか?」


 「ある」


 即答したのは、ルークスだった。


 「俺たちは、信仰を否定するんじゃない。“利用する者たち”を否定する。それが、あんたの力を借りる条件だ」


 沈黙。

 カイロンはゆっくりと仮面を外した。


 現れたその顔には、人のものとは思えぬ文様が浮かんでいた。古代神術の痕跡——神の実験体とされた者に刻まれる呪い。


 「ならば、私はその力を貸そう。お前たちが“神を欺く者たち”を断罪するまで、影に徹しよう」


 封印の中心から放たれた光が、ルークスたちを包み込んだ。

 それは“神喰い”の力を、彼らに託す契約の印。


 審問官たちは後退し、誰一人その場から攻撃を仕掛けなかった。

 “何か”が、彼らの本能に語りかけていた。


 この存在は、下手に触れれば“世界そのもの”を変える——と。


 そして、契約は静かに完了した。


 影から現れた存在は、今や彼らの後ろ盾となり、王都に巣食う“偽りの神”との最終決戦へと舞台を整えたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ