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第34話・第1節「闇の記録回廊と神喰いの残響」

 “真聖堂”の地下へと続く階段は、まるで時を失った遺構のように、冷たく静かだった。

 石壁は苔と血痕で黒ずみ、歩を進めるたびに、かすかに呻くような音が耳に届く。

 まるで過去に葬られた声が、今なおここで囁き続けているかのようだった。


 「ここは……“記録回廊”。教会が封じた歴史の墓場よ」


 “囁かれし者”の言葉に、ミュリナが息を呑んだ。

 広がる空間はまるで巨大な書庫。だがそこに並ぶのは普通の書物ではなかった。

 石板に封じられた血の契約、魔素で編まれた聖譚の断章、そして、破られた異端判決の記録――。


 「すべて……“抹消された真実”……!」


 ルークスが手に取ったのは、聖典の初期稿と思しき文書だった。

 だがその内容は、現在の教会が掲げる教義とはまったく異なる。


 《神は人の自由意思を尊重せよ、と記した。されど、後の者がこれをねじ曲げ、支配の道具と為す》

 《選ばれし者などいない。ただ、己の光を信じる者が道を歩むべし》


 「……やっぱり、教会の根幹自体が、改竄の上に築かれていたんだ」


 ミュリナの手が震える。

 その目には、かつて聖女候補として信じ、従ってきた教義が、いかに歪められたものかがはっきりと映っていた。


 「これは……“神喰い”に関する記述?」


 ジェイドが別の石板を示す。そこには、かつて存在したとされる“神喰い”と呼ばれる存在の封印記録が残されていた。


 《神に近づきすぎた者は、光に焼かれるか、闇を喰らう者となる》

 《初代の“神喰い”は、教会の祖たちが結集し、禁断の封印術で封じた》


 「神喰い……おそらく、神の力そのものに触れ、正義と悪の区別を超越した存在。だから教会は、それを“異端”とした」


 「……つまり、“神すら超える存在”を、過去に人類は作ってしまった」


 “囁かれし者”が重々しく頷く。


 「その神喰いが、今もどこかに眠っているとすれば――」


 「いや、ルークス……ここに記されている“神喰い”の封印場所……」


 ジェイドの指差す文字を見て、ルークスは表情を変えた。


 「……“旧王都イラグニア”。……かつて、戦火によって滅んだとされる街……いや、“教会によって焼かれた”という噂の真相が……!」


 「この記録が事実なら、イラグニアの崩壊は神喰いを封じるための“聖なる口封じ”だったってことになる……!」


 「そして、その場所は――我々が目指す次の交差点となる」


 ミュリナの声が震えながらも強く響いた。


 彼女はもう、ただの聖女候補ではない。

 真実を見据え、虚偽に立ち向かう者の瞳をしていた。


 「その前に……この記録の写本を作っておこう。万一ここが崩れても、真実は残さなければならない」


 ルークスは魔導刻写装置を取り出し、石板や文書を次々に複製していく。

 その作業を見守るミュリナとセリナもまた、別の記録群を読み漁り、手分けして複製を進めていた。


 その時――。


 「ッ……これは!」


 セリナが取り上げた文書のひとつに、“聖女制度”の起源とその裏側を示す決定的な記述が記されていた。


 《聖女とは、神の声を“代弁”する存在に過ぎぬ。だがその声は、常に“選ばれた祭司”が定める》


 「……最初から、“聖女”は神の意志ではなく、“権力者の口”だったのね……!」


 セリナは握った書簡を強く締め、悔しさをにじませる。


 「それでも……私は、この歪みを正すために聖女として立ちたい。偽りではなく、本物の意志を伝える者として」


 その決意に、誰も何も言わなかった。ただ、皆が黙って彼女の覚悟を受け止めていた。


 記録回廊の奥、さらに深層へと続く扉が、重い音を立てて開き始める。


 そこには、神喰い封印の“鍵”とされる装置が眠っているという。

 だが、それは同時に――さらなる試練の始まりでもあった。

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