第8話 魔族と花咲く人間の街
今日も外では元気に吸血鬼のルイナと死神のミゼルディアは魔剣と鎌を交えている。最近は空中戦にはまっているらしい。いつも二人仲良く服を汚して帰ってきている。わたしは黒猫のリリィに料理を教えながら夕食を作っている
「二人ともご飯できたよ~」
玄関ドアを開け外の二人に声をかけるとすぐに空から降りてきて家の中へ入っていった。もちろん汚れたままで。
「とりあえず二人ともご飯の前にお風呂に入ってきてね」
二人はそのまま浴室へ向かった。
「ちなみに今日の夕食はなんだ?」
ルイナは振り返り夕食を聞いてきた。
「今夜はコケ鳥の唐揚げだよ」
「やったー肉だ!ミゼ、今日の夕食は肉だぞ!」
私はそう答えるとルイナははしゃぎながら再び浴室へ向かった。まるで小学生の様にはしゃぐルイナをリリィと顔を見合わせて笑っていた。
コケ鳥はこのあたりの森に生息しているニワトリより一回り大きい生き物だ。
ルイナとミゼルディアがお風呂から上がり四人で夕食を食べた。
「明日テフリカって言う街に行こうと思うんだけどみんなも一緒に行く?」
夕食を食べ終わり寝るにも早い時間にみんなに提案してみた。テフリカは王都フロラに属する街でカフェや露店が多く立ち並んでいる。
「いいですね行ってみましょう!」
「あそこはここではおいしい食べ物が多いので楽しみです」
「久しく行ってないから言ってみたいな」
どうやらルイナとリリィは昔一度行ったことがあるらしくテフリカで有名な食べ物や観光名所を教えてくれた。
翌日
朝からわたし達はテフリカに向けて出発した。箒に乗って空を飛んでの移動だ。リリィは飛べないので黒猫の姿でわたしの鞄の中にいる。ルイナとミゼルディアはわたしの隣を楽しそうに飛んでいる。
「ご主人様テフリカが見えてきましたよ」
黒猫姿のリリィがわたしの鞄の中から教えてくれた。あっという間に空の旅は終わり目的地のテフリカに着いた。
「おぉぉ!あっちにもこっちにも屋台があるぞ」
「わぁぁルイナ羽をしまってください人間にばれたら騒ぎになちゃう」
はしゃぎすぎて羽をしまい忘れているルイナを見て慌てるミゼルディア。人間と魔族が対立するこの世界でルイナ達は人間からしたら討伐対象だから羽のしまい忘れや尻尾のしまい忘れには注意しなければならない。ただ家の近くにいあるマトラ村ではルイナやリリィ、ミゼルディアのことは村のみんなに説得して今では受け入れられている。
「とりあえずお金渡しとくからそれが無くなるまでは自由行動にしようか。ミゼルディア、ルイナのこと頼める?」
今にも飛び出しそうなルイナの手をつなぎとめているミゼルディアに少量のお金の入った革袋を手渡した。
「ルイナのことは任せてくださぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「行くぞミゼ、まずはあっちの屋台からだ!」
ミゼルディアはルイナに引っ張られあった言う間に姿を消した。それにしてもあのルイナがミゼルディアにここまでなついたのは正直意外だった。まぁ、仲が良いことに越したことはないか・・・
「ご主人様どうかしましたか?」
「ん、何でもないよ。わたし達も行こうか」
わたしもリリィと一緒に歩きだした。
どうやら今日はこの街で花の祭りが開催されているようだ。いたる所に花の輪が飾られていて人も多くにぎわっている。わたしは歩きながら串にささった肉をリリィと食べたり部屋に飾る小物を買ったりしてとても楽しい時間を過ごしていた。しかし時間が経つにつれ背後から視線を感じるようになった。最初は人が多いからきずかなかったが人が少ない場所に行ってもまだ背後から視線を感じて怖くなった。そこでリリィに頼んで後ろから誰かついてきてないか確認してもらったら一人の女の人がついてきていることが分かった。その女は隠れることもせずただ後ろをついてくる。幸い近くにカフェがあったのでそこに入り外の見える席に座った。さすがに店の中までは付いて来ないだろうと思っていたが女はあろうことかわたと対面するように椅子に座った。
「やっとキミと話せる。魔族を連れてる魔法使いさん」
「誰よあなた、それに魔族なんて連れてないわよ」
急に目の前に座ってきたストーカー女に威圧的に話す。
「そんなに警戒しなくてもいい私の名はミリティア・ニレナ、魔族だ」
「ほんとに魔族なの?」
ストーカー女改めミリティア・ニレナは金色の目でわたしを見つめて自分が魔族だと主張している。その真剣な目を見れば噓を言っていないと分かるがどうも怪しい。だってわたしをストーカーするくらいだし。
そんなことを思っていたらリリィがいつの間にか鞄の中から顔を出していた。
「ご主人様その方は本当に魔族ですよ。それもかなり強いですよ」
リリィは耳を横に倒しミリティアを見つめている。リリィがミリティアのことを魔族というのならばそうなのだろう。
「そこの黒猫はなかなか見る目があるな」
「あなたが魔族だっていうことは分かったけど一体何が目的なの」
「それは、魔族を連れてるキミが気になったからだ。別にこの街を滅ぼそうなんて思ってないよ」
ミリティアはニコニコしながら話す。
「それで、どうして魔族と一緒にいるんだい?」
「家族だから当然でしょ。それにわたしは魔族と敵対するつもりはないからね。できれば仲良く暮らしたい」
「やっぱりキミは私と考えが似ているようだ」
「何か言った」
「いや何も」
わたしが質問に答えるとミリティアは何かつぶやいたが上手く聞き取れなかった。聞き返してもニコニコしてはぐらかされた。
「聞きたいことは聞いたし私はこれで失礼するよ」
「え、聞きたいことってこれだけ」
「私はこう見えて忙しいんだまた今度お茶しよう。そういえば名前を聞いてなかったねなんて言うんだい」
「わたしはユウでこっちの可愛い黒猫はリリィ」
「そうかユウって言うのか。そういえばユウは花見の丘には行ったか」
「いや行ってないけど」
花見の丘は数々の色鮮やかな花が咲いているこの街の観光名所の一つだ。
勿論わたし達はこの街に来たのは初めてなので行ったことはない。
「そうか、なら黄昏時に行ってみるといい。人も少ないしきっといいものが見れるぞ。場所はここから西の方に歩けば着くぞ」
そう言うとミリティアは席を離れ店から出て行った。わたし達も店から出るとちょうど目の前をルイナとミゼルディアが歩いていた。
「あ、ユウさんやっと見つけましたよ」
ミゼルディアがルイナと一緒にこっちに向かって手を振りながら駆け寄ってきた。
「それで一体どんないいものが見れるんですかね」
わたし達はミリティアに教えてもらったと通り黄昏時に花見の丘にやってきた。
そこにはたくさんの花が落ちかけの夕日に照らされ輝いていた。
「綺麗ですねご主人様」
「そうだねこんなにきれいな花は、初めて見たよ」
思わず見入っていたらいつの間にか陽が落ちて辺りが暗くなっていた。
テフリカからの帰り道疲れて眠ってしまったルイナをミゼルディアが抱きかかえ家に帰ってきた。
家に着いた時にはみんな疲れてすぐに眠ってしまった。
同刻、魔界では
「お帰りなさいませミリティア様。人間界の視察はどうでしたか」
薄暗い部屋の中でかしこまった少女の声が響く。
「あぁ、いつも通り平和そのものだったよ。それに面白い人間にも出会えた。そういえば招待状はどうなった」
「はい、招待状はすべて明日朝一番で発送する予定です」
「じゃあこの招待状を追加しといてくれるかい」
「承知いたしました」
少女はミリティアから追加の招待状を受け取り部屋から出て行った。
「もうすぐ魔王就任式か・・・」
窓から差し込む月明かりに照らされてミリティアは夜の魔界を眺めていた。