第6話 パンと死神
「いらっしゃいませー」
パンの並んだショウウィンドウ越しに可愛らしい声が聞こえてくる。
声の主は背が足りず頑張って背伸びをしているルイナだった。
「タトルの甲羅パン、焼きあがりましたよ」
藍色のエプロンを着たリリィがタトルの甲羅パンが乗ったお盆を持って厨房から出てきた。
そしてわたしは、ジョブチェンジの力を使って厨房でパンを焼いている。
どうしてこうなったのか。それは今から三時間前に遡る。
朝、いつものようにルイナとリリィと一緒に村のパン屋に買い物に行っていると突然厨房の方から大きな物音が聞こえ何事かと思っていたら店主の奥さんがやってきて「主人か突然倒れたから店を閉める」と告げられた。だが、まだ店には私たち三人を除いてもたくさんの客がいて閉めるに閉めれない状況だったため奥さんが帰ってくるまで手伝うと申し出たら喜んでこの申し出を受けてくれた。そして今、三人で協力して店を回している。
「すみません、このお店の店主のコドルさんっています?」
客が少なくなった時、長い薄紫色の髪の少女はあたりを見渡しながら店の中に入ってきた。
「店主ならいないぞ。今朝倒れて奥さんと医者のところに行っているからな」
ルイナが背伸びをしながら答える。
「そうですか、じゃあまた明日来ますね」
少女はあっさり店を後にした。
「なんだったんだあいつ」
「ルイナー店主さん帰ってきたからそろそろお店閉めるよ」
「はーい」
ルイナの元気な返事を聞いて帰ってきた店主の奥さんからお礼のパンをもらって家へ帰った。
「今日、店に死神が来た」
ルイナの突然の発言に食べていたパンを詰まらせそうになった。慌ててリリィが水を持ってきてくれた。
「死神ってあの魂を刈り取るって言うあの・・・」
コクリとルイナはうなずいた。
「そうだ、そして明日パン屋にやって来るだろう。多分その死神の狙いは店主の魂だ」
「どうしてルイナは明日パン屋に死神が来るってわかるの」
「本人がそう言っていたからだ」
まさかの自己申告制の死神驚きが隠せない。そして翌日パン屋の前に行ってみると薄紫髪の少女がガラス越しに薄暗い店の中をのぞいていた。別に見た目はただの女の子なのに本当に死神なのだろうか。
そういえば昨日店主の奥さんが「主人は働き過ぎで倒れたみたいだからしばらく休ませるためにお店を閉めるわね。後、張り紙もドアのところに貼っておくから」って言ってたけどっもしかしてあの子張り紙見てないのかな。
「ねぇ、ちょっといいかな」
「ヒャッ、何ですか別に怪しい者じゃないですよ」
突然話しかけられ少女は驚きながら振り返りこちらを見た。
「えっと、入り口のドアに張り紙があると思うんだけど今日からこのお店しばらくお休みなの」
「ふぇ?張り紙?」
少女はドアまで走り張り紙を確認した。
「そんな・・・あの、どうやったらこのお店の店主さんに会えますか」
張り紙を確認した少女はわたしの両肩をつかんで店主への会い方を聞いてきた。
「ちょっと、落ち着いて。どうしてあなたはそんなに店主さんに会いたいの」
「えっと、その、とにかく今会いに行かないとあの人間は死ぬの。だから私が助けようと・・・」
「人間の魂を奪う死神が人間を助けるのか?」
話を聞いていたルイナが口を開いた。
「・・・いつから気づいていたのですか」
「初めて店に来た時からだ。わたしの目はごまかせないぞ何が目的なんだ」
正体を暴かれた死神の少女は驚きたじろいだ。
「確かに私は死神だけどまだ寿命も来てない人間の魂を奪うことなんてしない。私はこのお店の店主さんのところに行って外に出かけてる魂を体の中に押し戻さないといけないの」
どうやら一昨日たまたま外で店主さんを見たらしくその時から体から魂が出かけている状態だったらしい。
死神の少女の言葉は嘘を言っているようには聞こえなかった。
すると店のドアが開き誰かが出てきた。
「あら、にぎやかだと思ったら・・・中へいらっしゃい」
店の中から出てきた店主の奥さんが私たち四人を店の中に入るように手招きをしている。
私たちは店の奥の小さな休憩室に通され置いてある椅子に座った。どうやら奥さんから話があるようだ
「実は昨日の夜から夫の容体が急変して医者に来てもらったら今夜が峠だそうなの」
突然の報告に私たちは何も言葉が出てこなくなった。ただ一人を除いて。
「私が店主さんを助けます!」
死神の少女が一人立ち上がったのだ。
「店主さんがいる場所に案内していただけますか?」
「えぇ、かまわないけど本当に大丈夫なの」
「まかせてください!」
死神の少女は自信満々に答えた。私たちは奥さんの後ろをついていき店主さんのいる部屋までやってきた。
「やっぱり魂が完全に体の外に出てる。急がないと」
部屋に入るなり不穏なことを口に出した。
死神の少女は寝ている店主さんの近くにより手をかざした。
「さまよえる魂よ彼の元に還り賜え」
そう唱えしばらくするとかざしていた手を放しこちらに振り向いた。
「これでもう大丈夫ですよ。もうすぐ目を覚ましますよ」
死神の少女の言葉どおり意識を取り戻し起き上がった。
「今、川の岸にいたじゃ、なぜベットの上にいるんだ」
奥さんは目に涙を浮かべほっと胸をなでおろした。
そしてしばらく経って私たちは店を後にした。
「それじゃあ私はこれで失礼しますね。」
「ちょっと待ってまだ名前聞いてなかった。わたしはユウこの近くの山の中でこの二人と暮らしてるの」
「我はルイナ・エリアスだ」
「リリィです」
二人もわたしに続いて名乗った。
「私は死神のミゼルディア・カーナ。ほかの死神と違ってむやみに魂なんか奪わない平和主義の死神さ」
死神の少女ミゼルディアは陽気に名乗り返した。
「ミゼルディア頼みがあるんだが三日後、森にある館に来てくれないか」
「いいですよ~あの館にはたくさん魂がありそうですから」
ルイナが少し暗い顔をしながらミゼルディアに頼みごとをした。
まだあの館の中に何か眠っているのだろうか・・・