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第4話 雨と黒猫

ルイナと暮らし始めて数日がたった。

 今日は二人で村に買い出しに来ている。


「よし、今日買うものはこれで全部かな」


 食材の入った紙袋を持ちルイナと共に村を歩いた。

 吸血鬼は太陽の下を歩けないがルイナは特製のローブを着ている。このローブには太陽の光を遮る遮光効果と雨や聖水をはじく防水の機能がついている。つまり、このローブを着ていれば晴れの日にも雨の日にも出かけ放題なのだ。


「ねぇ、ルイナの着てるローブって作れるのかな?」

「作り方は知らないけど、魔界に行けばお土産感覚でたくさんの色や柄のローブが売ってる」


 ルイナはそう言うとわたしの持っている紙袋からリンゴを取り出し一口かじった。


 数分かけ家に帰り買ってきた食材を整理しているとあることに気づいた。そう、ここ数日で消費した牛乳を買い忘れたのだ。ただ、たった今家に帰ってきたのにまた外に出るのは面倒だ。

 あと疲れたから動きたくない。


「ごめんルイナ、牛乳買い忘れたから明日買いに行こう」

「それは困る、私のお風呂上がりの楽しみがなくなる」


 そんな銭湯みたいなって思ったけど教えたのわたしなんだよね。


「でも、今から外出るのもなぁ。なんか雨も降りそうだし」


 窓の外を見ると今にも雨が降りそうな雲が空を覆っていた。


「私が買ってくる。私なら村までひとっ飛びだし雨が降っても平気だから」


 黒い翼を広げてわたしにアピールをしている。可愛い。

 確かにルイナなら村まで行って帰ってくるのはあっという間だ。


「うーん、じゃあ買ってきてもらおうかな」

「やったー!じゃあ行ってくるー」

 そんなにお使いに行きたかったのかお風呂上がりの牛乳が飲みたかったのか

 ルイナは笑顔で翼を羽ばたかせながら飛び出した。


「大丈夫かな…」


 心配しながらルイナを見送り暖炉の前に置かれているソファーに座り窓を見る。

 ポツポツと雨が降り始めた。



 ルイナがお使いに行って長い時間が過ぎたがまだ帰ってこない。

 強まる雨を窓越しに眺めながら不安のあまり部屋をグルグルと歩き回った。

 すると窓の奥に両手に黒い何かを抱えているルイナの姿が見えた。だが、行に着ていたローブを着ていない。

 わたしはすぐにドアを開け持っていたタオルをルイナにかぶせた。近くで手に持っているものを見るとそれは、ルイナが着ていた黒のローブだった。何かあったのかと尋ねようとしたがそれよりも早くルイナの口が開いた。


「ユウ、早くこの子を助けて!」


 慌てた様子で手に持っていた黒いローブをめくりだした。《《なにかいる》》。

 その中にはローブの色と同じ黒色で金色の瞳と猫耳が見えたがその体はひどく傷ついていたがルイナが応急処置でヒール魔法を使ってくれたおかげでなんとか一命をとりとめている。


「分かった、この子はわたしに任せて。ルイナはお風呂に入っておいで風邪ひくよ」


 わたしはルイナからローブに包まれた黒猫と買ってきてくれた牛乳を受け取った。


「とりあえず今するべきことはこの子の傷を治すこと。でもヒール魔法は完全に傷を治すことはできないでも薬草があれば傷を治せる。確か棚の中に入ってたはず」


 わたしはローブと黒猫を暖炉の前に置き棚の中を漁った。棚の中から無造作に置かれた薬草を取り出した。


「ジョブチェンジ!【薬師】」


 ユウは白衣に身を包んだ。【薬師】の能力はただ回復薬を作るだけではない。即効性のある回復薬を作ることができ、質の高い薬草や薬草の種類がわかる。


「この能力があればこの子の傷を治せるかも」


 薬草を手に取り回復薬の調合が始まった。どの薬草を使えばいいか目に視えてわかる。程なくして回復薬は出来上がった。私は出来上がった回復薬を急いで暖炉の前の黒猫に飲ませた。


「ごめんね、ちょっと苦いかも」


 回復薬を口に含んだ黒猫は体の傷がなくなり閉じていた目が開いた。


「よかった、ちゃんと効いて」


 わたしはそっと胸をなでおろした。

 すると黒猫の姿が一瞬にして人の姿になった。長い髪は黒く猫耳としっぽの生えた可愛い女の子だ。


「ここは・・・どこ?」


 黒猫の女の子は不安げにあたりを見渡した。


「ここは、わたしの家だよ。安心してあなたに危害は与えないから」

「人間の家・・・助けてくれたの?」

「今お風呂に入ってるけどルイナがここに運んできてくれたんだよ」


 そんな話をしていたら勢いよく扉が開きお風呂上がりのルイナが出てきた。


「ユウ、あの黒猫どうなった」


 ルイナは、髪も乾かさずわたしのそばまで駆け寄ってきた。


「そのことなんだけど回復薬を飲んで傷が癒えたと思ったら女の子になっちゃって」

「あぁこの黒猫は人に化けるのが得意な魔族なんだよ。その気になれば耳や尻尾を完全に隠すことができるんだ」

「ところでルイナ、この子をどこで拾ってきたの」

「山の中腹あたりで魔獣に襲われていてそれを助けただけ」


 ルイナは黒猫の女の子を見ながら説明してくれた。


「そっか、ルイナは偉いね」


 ルイナの髪を乾かしながらほめると嬉しそうに左右に体を揺らしだした。


「そういえばあなた名前はなんていうの」

「・・・リリィ」

「かわいい名前だね。わたしはユウ、それとわたしの前に座ってるのがルイナだよ」


 黒猫の女の子は目をそらしながらそう答えた。警戒しているのだろうさっきから目を合わせようとしてくれない。それでもわたしは知りたい、あの傷は魔獣が負わせたものではないのになぜルイナが「《《魔獣に襲われていた》》」なんて嘘をついたのか。でもきっとルイナは教えてくれないだろう。だから直接本人から聞いておきたい。ここに来るまでに何があったかを。


「それじゃあわたし達もお風呂に入ろうか。行くよリリィ」

「えっ・・・なんで」

「雨に濡れてたのにそのままにするわけにもいかないでしょ」

「・・・確かにそうですけど」


 若干渋るリリィの手を引き一緒にお風呂に入る。これなら二人で話をすることができる。


「髪流すから目閉じててね」


 バシャーン

 暖かいお湯をかぶったリリィはぎゅっと目を閉じた。

 髪を流し終えた二人はユウの膝の上に乗り同じ方向を向くように湯船につかった。


「ねぇ、ちょっとは心開いてくれた?」

「なんですかその質問は、リリィはあなたに気を許すつもりはない」

「まぁそうだよね。・・・ところでリリィは帰る家はあるの?」

「帰る家・・・人間、あなたには関係ないです。リリィの心配なんて必要ないです」


 リリィはうつむき湯船に映る自分の顔を見ながら答える。

 多分リリィにはルイナに話していてわたしに話したくないことがあるんだと思う。あの傷は明らかに魔獣ではなく鞭を打たれた痣や剣かナイフで切られたり炎魔法を撃たれたような傷跡まみれだった。

 これはただの予想だがリリィは誰かから逃げるようにここへきて偶然ルイナに会った。そして逃げる途中もしくは逃げる理由にあの傷が関係しているんだと思う。

 結局お風呂の中で聞きたいことは聞けなかった。

 そして夕食の時間となった。


「今日のご飯は焼き魚だよー」


 わたしが机に焼き魚を置いているとリリィが耳としっぽをピンとまっすぐ伸ばし目を輝かしていた。

 とてもおいしそうに食べるリリィがとても幸せそうにみえた。

 そしてリリィから何も聞き出せないまま一日が終わろうとしていた。


「もう眠いから寝るね」


 大きなあくびをしながら眠そうにルイナが言う。


「うん、おやすみ。リリィはどうする」


 同じく眠そうなリリィに聞いてみた


「リリィも寝る」


 眼をこすりながら答えた。

 そうして二人は寝室に入っていった。ベットは一つしかないのでわたしは暖炉の前のソファーで横になり目を閉じた。


 外の雨は上がり暖炉の火が消え室内が暗くなってから一体どれくらい時間がたっただろう。カーテンを閉めた暗いはずの室内に月明かりが差し込む。

 わたしは目を覚ましドアが開いていることにきずいた。そこにはルイナと寝ていたはずのリリィが立っていた。


「リリィ?」


 名前を呼ばれてリリィは振り返る。


「あなたですか・・・寝ていたはずでは」

「それはこっちのセリフだよ。どうして外にいるの」

「少し夜風にあたりたかっただけです。気にしないでください」


 そう言いながら家へ戻ってきた。だがその顔はどこか悩みや不安が残っている顔をしていた。


「ねぇ、少し話さない」

「なぜですか。リリィはもう寝ます」

「その様子じゃあ当分寝付けないでしょホットミルク淹れるからソファーに座りな」


 わたしは暖炉に火をつけリリィにソファーに座るように座るように言うと意外と素直に言うことを聞いてくれた。

 ホットミルクを二人分淹れリリィの隣に座った。


「リリィって意外と素直なのね」

「そんなことないです」


 二人でホットミルクを一口飲んだ。リリィのは猫舌なので少し温めに淹れてある。


「それで、何か悩みでもあるの?」

「ありません」


 リリィはきっぱりと答えた。

 せっかく二人で話せるチャンスなのだからお風呂の時に聞けなかったことも聞いてみたい。だから少し踏み込んだ話をしてみる。


「じゃあ一つ質問していい」

「いいですよ」

「なんでリリィはこの山の中で傷だらけで倒れてたの」

「それはリリィが魔獣に襲われていたから」

「それは嘘だね。ここら辺の魔獣はわたしとルイナで片づけた」


 それを聞いたリリィは驚いた顔をした。それもそのはずだ山や森には魔獣がいるのが当たり前でただでさえ多い魔獣をたった二人で全滅させれるなんて不可能だからだ。

 だが事実として確かにこの山の中には魔獣が一匹もいない。それはリリィもわかっているだろう。


「その傷は人間に負わされたんだよね」

「・・・そう。人間にやられた。でもどうしてわかったの」

「さっきも言ったけどこの山の中に魔獣はいない。そしてあなたの傷を見て一目でわかった。これは、人の手によって付けられたものだと。ナイフか剣でつけられたような傷跡。炎魔法を受けたようなやけどの跡ほかにも色々あった。そしてあなたは人間から逃げる途中でルイナに会った。まぁ、これはあくまで予想だけど」


 わたしはお風呂の中で考えていたことを話した。予想とは言ったもののほぼあったことだった。


「その通りです。リリィは人間に殺されかけました。それはリリィが魔族だからでしょう。当然のことです。そこへ同じ魔族である吸血鬼のルイナに救われました。ルイナは圧倒的な力で人間を追い返してくれました」


 リリィはここへ来る前のことを話してくれた。これ以上隠すことは無駄だと考えたのだろう。


「リリィは魔族です。それなのに殺そうともせずにもう治らないと思っていた傷を治しお風呂にも入れてもらいご飯まで与えてくれた。家族も家もないからとても暖かく感じていました。それなのにリリィはあなたを信じようとしなかった。怖かったんです。今度こそ殺されてしまうのではないかまた居場所もなくさまよってしまうのではないか。そんな考えがよぎっていました」


 そこまで言うとリリィは空になったカップを両手で持ち黙り込んでしまった。もし、ルイナに会わなかったら。そう思うと胸が痛くなる。だからこそわたしはこの子を守らないといけないと思った。


「もし、わたしを信じれるならこの家に住まない?ルイナもいるしここを出てさまよい続けるよりいいと思うけど」

「願ってもない申し出ですけど本当にここに住んでいいんですか」

「うん、もちろん。わたしもルイナもその方がうれしいよ。ねっ、ルイナ」


 いったいどこから聞いていたのかソファーの後ろにしゃがんでいたルイナに話しかける。


「も、もちろんそのほうがいいに決まっている。で、なんで隠れていることがばれたんだ」


 隠れていたことがばれて慌てながらルイナを見てわたしとリリィはクスクス笑った。


「ありがとうございます。これからよろしくお願いします。 ご主人様」

「え、今なんて・・・ご主人様?」


 わたしも聞き間違え出なければ今確かにご主人様って言ったような。


「はい、今確かにご主人様と呼びましたよ。これから使えるのですから当然の呼び名では?もしかして主様が良かったですか」

「いや、呼び名はどっちでもいいんだけどほんとにそれでいいの」


 リリィは、大きくうなずいて「はい!」と答えた。まさかの呼び名に混乱したがまぁ良いだろう。


「ところで、ルイナはどうしてわたしに「リリィが魔獣に襲われてた」なんていう嘘をついたの」


 当然の疑問だこの山に魔獣はいないのだから。


「それは、傷だらけのリリィを見たときにユウから普段漏れていない魔力が怒りで漏れていたから嘘をついた。ホントのことを言えばきっとリリィを傷つけた人間を殺しにいくと思たから」


 確かに本当のことを言われていればどうなっていたかわからない。ルイナは意外と人をよく見ているのかもしれない。自分じゃあ魔力が漏れているなんてわからなかったし。


「そっか嘘をついてくれてありがとね」


 わたしはルイナの頭を撫でた。いつの間にかわたしのホットミルクはルイナに飲まれていた。


「じゃあもう寝ようか」

「そうだな寝よう」

「おやすみなさいご主人様」

「あっ、そうだリリィ」

「なんですか」


 わたしはリリィを呼び止めた。これ打は聞いておきたかったからだ。


「ちょっとは心開いてくれた?」

「もちろんです!ご主人様」


 リリィは振り返り笑顔で答えた。

 暖炉の薪がパチパチと音を立てその温かさとともに眠気を誘ってくる。


「これからにぎやかになりそうだ」


 わたしはソファーに横になり目を閉じ眠りについた。

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