第28話 二人の勇者
「勇者候補生?」
「そうなんです王都の学園で勇者候補生が出たみたいなんですよ。それも二人」
ユウはギルドハウスで受付嬢のライムと今朝王都から発行された新聞を眺めていた。
王都にある王立ウェルネシア学園で数百年に一度現れるという勇者候補生が二人も現れたのだ。
勇者候補生の二人は入学時の魔力検査で使われる水晶に手をかざした瞬間水晶はひび割れ、適正属性は光だった。この光属性は勇者にしか与えられない属性である。
「この話をライネアンにもしたんですけどライネアンが、―その勇者候補生とやらに会わぬよう注意しろとユウに伝えておけ―って。ユウさん何かしたんですか?」
「いやぁ、別に何もしてないと思うけど・・・一応注意しておくよ」
そのあともライムと他愛のない話をしてユウは家に帰った。
「ユウ、いまから王都に行くぞ」
「なんで当然のように家に魔王がいるのよ」
家に帰ると待ち構えていたかのように魔王ミリティアがいた。そしてルイナたちもすでに出かける気満々だった。
「ユウも聞いているのだろ王都に勇者候補が現れた話を」
「うん、さっき聞いてきたけど」
「いまからそいつを見に行く」
そう言ってミリティアはゲートを開いた。
「あーなんか拒否権無さそうだなぁ。まぁいっか、ついでに買い物して帰ろ」
ユウたちはミリティアの開いたゲートを通り王都の裏路地に出た。
「取り敢えずみんなあまり勇者候補生に近づかないようにね。何されるか分からないから」
「そうだなあれは勇者候補生じゃなくて本物の勇者だ」
ミリティアは群衆の中心にいる二人の少年を見てそう言った。
「どういうこと?」
「ご主人様、今【アナライズ】であの二人の人間を解析しましたが勇者にしか持ちえないスキル【聖剣の光】を持ってます」
勇者専用スキル【聖剣の光】は勇者が聖剣を振っているときに発動するスキルで自身の光属性の魔力を剣に乗せ光の斬撃を放つことができるのだ。
「私はもう少し近くに行く。しっかり顔を覚えておかないとな。もしかしたら名前も聞けるかもしれん」
「それならわたしがい行くよ。人間だし何かあってもどうにかなる」
「そうか、ならこれを渡しておこう」
ユウはミリティアからペンダントを受け取った。
「そのペンダントを身に着ければ魔力を抑え込むできる」
「ありがとう。それでミリティアたちはどうするの」
「そうだな、久しぶりの王都だ、ルイナたちを連れて買い物でも楽しむよ」
そう言ってユウはミリティアたちと別れ二人の勇者がいる群衆へと向かった。
「もうちょっと近づかないと何も見えない・・・」
そこには勇者を一目見ようと集まった人たちが壁となりユウは中々近づけずにいた。
ユウは人の間を通り抜けなんとか勇者が見える場所までたどり着いた。
「あれが勇者、兄弟かな?目の色は同じ碧色だけど髪色は二人とも違う。右の勇者が黒で左の勇者が白か、あとは名前が分かればいいんだけど」
「あら、あなた勇者様のお名前を知らないの?だったら教えてあげるわ」
「ふぇっ!」
ユウは隣にいたおばさんに突然声をかけられ驚いたが親切に名前を教えてもらった。
白色の髪の方は兄のゼルデア・ベルエスト、黒色の髪の方は弟のエギル・ベルエスト。二人はベルエスト家という名家の生まれらしい。
「やっぱり二人とも魔王を討伐しに行くのかな」
「そりゃそうよ、お二人は学園卒業後に魔王を討伐するって公言されたのよ」
隣の親切なもう一度勇者について教えてくれた。どうやら二人の勇者は三年後、学園を卒業した後パーティーを組んで魔王を討伐しに行くらしい。
ただどうやって魔界に行くのだろうか。現状勇者が魔界に行くには魔法陣を使ってワープするしかないが一度ミリティアに魔法陣で魔界に行けるか話したところワープ先は魔王城の牢獄行きになっている。
勇者たちの凱旋見送ったユウは得た情報をミリティアに伝えに行くべくその場から離れた。
「なにをそんなに買ったの」
ミリティアたちは両手いっぱいに紙袋を持っていた。
「これはサフィーナたちへの土産だ」
「それに魔王様は我らにもいろいろ買ってくれたぞ」
ユウはルイナに近づき持っていた紙袋を半分持った。
「それで、ユウの方は何か情報はある?」
「じゃあ、その話は家に帰ってからで」
ユウがそう言うとミリティアはゲートを開き自宅へ帰った。そしてユウは得た情報をすべてミリティアに伝えた。
「・・・そうか三年後かあまり時間がないな」
「ミリティアはもし勇者が攻めていたらどうするの」
「できれば話し合いで解決したいが、戦うしかないだろな」
ミリティアは紅茶を飲んでそう言った。ミリティアは魔王でありながら人間との共存を望んでいる平和主義者だからこそ戦いは避けたいのだろう。
「なるべく早く人間の王と人と魔の共存について話し合いがしたいんだがな」
「難しいの?」
「当たり前だ。勇者が出現する前なら堂々と王都に出られたが今は難しいな。見つかれば大混乱だ。人間の王に手紙を送るのも難しいな」
「だったらわたし仲介しようか」
「何言ってるんだ」
ミリティアは若干あきれたようにユウの方を見た。
「わたし王様とは会った事があるし王宮通行書も持ってるから手紙を渡したりはできると思うの」
「危険じゃないのか。自らが魔王とつながりがあることを晒すのは」
「大丈夫だよ、きっと分かってもらえる。そういう人たちだから。それにわたしも人と魔の共存を望んでるからこれくらいはするよ」
「そうか。だったら協力してもらおう。そのためにまず私は城に戻って幹部を集めて会議をしないとな」
ミリティアは立ち上がりゲートを開いて魔界へ帰っていった。
「ユウは人間と魔族どっちに着くんだ」
「どうしたの急に」
「もし魔王様の目指す人間との共存が上手くいかなかったとき必ず対立し戦いが起こる。その時にユウはどっちに味方するんだ。この対立に首を突っ込んだ以上少なからずこの選択をしないといけないだろう」
「そうだね、できれば中立でいたいけど、わたしはいつでもルイナたちの味方だよ」
そう言ってユウはルイナの頭をなでて立ち上がった。
「それじゃあ、ご飯作ろっか。今日はグラタンだよ」
「私も手伝うぞユウ」
「私も手伝いますよユウさん」
「珍しいですね二人が料理を手伝うなんて」
ユウはキッチンに移動しリリィと一緒にグラタンを作り始めた。今日は珍しくルイナとミゼルディアも手伝いに来てくれてとても賑やかな時間になった。




