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ジョブチェンジ!  作者: うなぎタコ


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第27話 黄泉送り

 翌日、いつものようにユウは暖炉に火をつけ朝食が出来上がったころリリィとルイナが起きてきた。


「あれ、ミゼは?」

「まだ寝てるんじゃないか。起こしてこようか」

「うん、お願い」

「珍しいですね、いつもこの時間に起きてるはずなのに」


 リリィと食器を並べているとルイナが走って戻ってきた。


「ユウ、ミゼの部屋にこれが・・・」


 ルイナはミゼルディアの部屋から持ってきた手紙をユウに手渡した。

 その手紙には『お姉ちゃんは返してもらうお姉ちゃんは私だけの物お姉ちゃんは誰にも渡さない』と書かれていた。


「これって・・・」

「あのアルテナがおいて行ったんだろな」

「多分夜のうちにミゼを冥界に連れ去ったんだね」


 ユウは手紙をぐしゃぐしゃに丸め潰して暖炉の中へ投げ入れた。そしてジョブを【魔法使い】から【魂の送り人】に変更した。


「いまから冥界に行ってくる」


 ユウは死神の鎌を取り出し空間を切り裂いて冥界の扉を出現させた。


「まて、私達も一緒に行く」

「ご主人様一人だけでは行かせませんよ」


 そう言って一人で冥界に行こうとしたユウの両腕をルイナとリリィはつかんで離さなかった。


「分かったよ、ヴィニアいる?」

「はい、ここに」


 ユウが精霊のヴィニアを呼ぶとすぐにユウの前に現れた。


魂霊遮断れいこんしゃだんの結界を張ってくれる?」

「承知いたしました」


 ヴィニアはすぐに魂霊遮断の結界をこの家に張った。


「ありがと。それじゃあ、わたしたちはミゼを迎えに冥界に行ってくるから帰ってくるまでこの家をよろしくね」

「お任せください。この家は私、ヴァニアがお守りいたします」


 ヴァニアに見送られユウたちは冥界へ足を踏み入れた。


「ここが冥界・・・」


 そこは明るく温かい場所で道は石畳、建物は木造、そしてそこら中に魂がフワフワ浮いた。


「まずはあそこの役場に行こう。ちょっと確かめたいことがあるの」


 三人は街の中心にある役場へ向かった。役場の中にはたくさんの窓口がありその中の命簿課の窓口に進んだ。冥界にある命簿課には死者の名前が書かれた名簿があり死神はその命簿に書かれた死者の魂を探しに行くのだ。


「ようこそ命簿課へ本日はどなたをお探しですか?」

「アルテナ・カーナの命簿を確認したいんだけど」

「承知しました。少々お待ちください」


 命簿課の受付嬢はアルテナの命簿を探しに行った。しばらくして一冊の命簿を持って帰ってきた。


「お待たせ致しました。こちらがアルテナ・カーナ様の命簿になります」


 ユウは命簿を受け取り中身をのぞいた。そこには『アルテナ・カーナ、人間界で事故により死亡』と書かれていた。


「どういうことだアルテナはすでに死んでいたのか」

「それもこれは十年前に書かれたものですよ」

「やっぱりね。ヴィニアに結界を張ってもらって正解だったね」


 アルテナの命簿見たユウの疑問は確信に至った。ユウの家とその周辺にはヴィニアが複数の結界を張ったがその一つに許可しない生物の侵入を弾く結界があるのだがその結界を突破できるのは迷い込んだ魂か霊だけだ。

 ユウはアルテナの命簿を返し役場から出た。


「ユウ、どうやってミゼを探すんだ?冥界のどこにいるのか見当はついているのか」

「もちろん。これを使う」


 ユウはポケットからドクロの髪留めを取り出した。


「それってミゼの髪留めですよね?何に使うんですか」

「それはね・・・ジョブチェンジ!【追跡者チェイサー】」


 ユウは髪留めを握ってジョブを【魂の送り人】から【追跡者チェイサー】に変更した。【追跡者チェイサー】の能力は追いたい人の私物を手に持つとその私物から金色の糸が所有者の下へ伸び追跡を始めるのだ。


「お、あっちの方に伸びてるな」

「あの山の方ですか」


 三人は糸の伸びる方へ向かった。石畳の道を外れ山の中に入り滝の流れる前を通ると小屋が見えてきた。


「糸はここで途切れてるな」


 ユウは小屋に近づき扉を開けた。


「ミゼ!」


 ドアを開けた先に居たのは椅子に座ってベットで眠るミゼルディアを眺めていたアルテナだった。


「静かにしてくださいお姉ちゃんがまだ寝てるんですよ」

「あんたミゼを誘拐して何するつもりなの」

「私はお姉ちゃん一緒に暮らしたいだけなの。なのにどうしてあなたは、あなた達は私の邪魔をするの?ねぇ、どうして」


 アルテナの薄紫色の髪が一瞬にして黒くなりその体に黒いモヤが纏わりついていた部屋の空気も重くなり机や枯れかけの観葉植物、ペン立てが震え始めた。

 その異常さに気付かない者はいなかった。


「あぁ、もう私の邪魔をするもの全部壊してお姉ちゃんと私だけの世界を創ろ。うん、私の邪魔するのが悪いんだよ」


 狂気の眼をしたアルテナは小屋を飛び出し滝の方へと飛んでいった。


「ルイナ、リリィ、アルテナを追って!」

「「了解」」


 ルイナとリリィはすぐにアルテナの跡を追った。


「ほら、ミゼ起きて」


 ユウはミゼの身体を揺らし起こそうとしたが中々起きなかった。さらに強く揺らしてみると薄らと目を開いた。


「うーん。あれ、ユウさんなんで私の部屋にいるんですかぁ・・・あれ、ここ私の部屋じゃない!ここどこ!」


 目を覚ましたミゼルディアは辺りを見回して混乱していた。


「落ち着いて、ここは冥界なの。ミゼは寝てる間にアルテナに連れてこられたんだよ」

「アルちゃんが私を・・・」

「そのアルテナの事なんだけど。十年前の事覚えてる?」


 そう聞くとミゼルディアは顔を引きつらせうつむいた。


「・・・調べたんですか」

「うん。怪しかったからね」

「そうですか。・・・十年前のあの日アルちゃんは人間の魔法の流れ弾を食らい死んでしまったんです。昨日も話しましたが事故や殺人で息を引き取った魂からは悲痛な叫びや嘆きが聞こえるんです」

「それがアルテナの魂だった」

「そうなんです」


 ミゼルディアの手が震えていた。それも無理ないだろう実の妹が目の前で死に魂となり悲痛な叫びを聞いているのだから。それでもミゼルディアは何か覚悟を決めたように手を強く握った。


「ユウさん、アルちゃんは今どこにいますか。今度はちゃんと私が送ってあげたいんです」

「アルテナならあっちの方に―――」


 ドーンッ!


 ユウが後ろを振り向いた瞬間突如大きな爆発音が響いた。


「ご主人様!大変です。アルテナを追っていたら滝の裏から骨のドラゴンが―――」


 ドーンッ!


 再び爆発音が響いた。


「リリィ、ルイナはどうしたの」

「今ルイナが骨のドラゴンの相手をしてます」

「骨のドラゴン・・・もしかしたらスカルドラゴンかもしれません。だとしたら早く倒しに行かないとアルちゃんが食べられちゃう」

「食べられる?どういうこと」

「スカルドラゴンは魂を喰らう冥界にしかいないドラゴンです」

「魂を喰らう・・・分かった。リリィ、ルイナの場所まで案内して」


 三人は小屋を飛び出しルイナとスカルドラゴンのいる場所まで飛んでいった。滝の流れる山の上空でルイナがスカルドラゴンと戦っていた。


「本当に骨だけのドラゴンだ」

「ユウ、感心してないで手を貸してくれ」


 ルイナは片腕に誰か抱えながら魔剣を使ってドラゴンの攻撃を受け流していた。


「アルちゃん!」


 ミゼルディアはルイナに抱えられたアルテナの下へ飛んでいった。


「お、ミゼやっと起きたのか寝坊だぞ。それとアルテナは気を失ってるだけだ」

「ありがとうルイナ。あのドラゴンは私が倒す」

「できるのか」

「余裕ですよ」


 そう言ってミゼルディアは死神の鎌を取り出し鎌をスカルドラゴンに向けた。


「あなたの弱点は心臓の位置にある魂を溜めている瓶。それを破壊すれば私の勝ち」


 ミゼルディアは鎌を担いでスカルドラゴンの周りを飛びながら近づいた。だがスカルドラゴンは攻撃の手を緩めることなく蒼い炎のブレスを吐き近づかせないように空を飛んでいた。そのブレスを華麗にかわしながら魂の入った瓶を視界にとらえた。


「あなたの溜めた魂、すべてを開放する。そしてあなたは朽ち果てる」


 ミゼルディアは鎌を振り魂の入った瓶を壊すと瓶の中にいた魂は解き放たれスカルドラゴンは生命を維持できなくなり骨が砕け跡形もなく消え去った。

 その後ユウたちは小屋に戻り目が覚めたアルテナからスカルドラゴンについて話を聞くことができた。どうやらスカルドラゴンは数百年前に滝の裏の洞くつにある祠に封印されていたがアルテナ自身の力を使い封印を破り解き放たれたんだと言う。その力を使ったアルテナは意識を失い小屋で目覚めたときには半透明になり触れることもままならなくなっていた。


「それでミゼ、アルテナはどうするの」

「・・・黄泉へと送ります。でもアルちゃんは死神の魂を持った霊なので黄泉に行って冥王様に会うことができればまた死神として生きていけます。だからアルちゃん、お姉ちゃん待ってるから早く帰ってきてね」

「うん、行ってくるよお姉ちゃん。ちゃんと待っててね」


 そう言ってミゼルディアは黄泉への扉を開きアルテナを笑顔で見送った。


「冥王なのに冥界じゃなくて黄泉にいるんだな」

「冥界の一部に黄泉の国があるです。そして冥王様は黄泉の国の一番高い頂上に住んでるんですよ。そこにたどり着くまでに早ければ数年通常であれば数十年以上掛かります」

「アルテナは何年掛かるんでしょうか」

「アルちゃんは優秀なのですぐ帰ってきますよ」


 アルテナを見送ったミゼルディアは黄泉への扉が消えるのを眺めていた。


「それじゃあ、わたし達もそろそろ帰ろっか」


 ミゼルディアに人間界への扉を開いてもらい四人はヴァニアが待つ自宅へと帰っていった。


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