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ジョブチェンジ!  作者: うなぎタコ


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第26話 ミゼルディアと妹

「うぅ、寒い・・・」


 窓の隙間から木枯らしが吹き込む早朝。ユウは暖炉に火をつけ部屋を暖め始めた。

 朝食が出来上がる頃リリィ、ミゼルディア、ルイナの順番で起きてくる。そして四人そろって朝食を食べるのだ。


「ミゼ、今日も手紙が届いてたよ」


 朝食を食べ終わった後ユウはミゼルディアに一通の手紙を渡した。


「今日もですか、まったく凝りませんね」

「いい加減そろそろちゃんと読んであげたら?」


 最近ミゼルディア宛に毎日手紙が届くようになりそのたびに暖炉の炎で燃やしていたのだ。


「じゃあ、読みますよ。えっと・・・あー」


 ミゼルディアは手紙を読み始めると露骨に嫌な顔をして手紙を暖炉の炎で燃やし始めた。


「ちょっと、ミゼなんで燃やしてるの」

「だってユウさん手紙に書かれてたのは『家に帰ってこい』だったんですよ。自分たちから追い出しておいて今更帰ってこいだなんて・・・」


 そう言ってホットミルクを飲んだミゼルディアは灰になっていく手紙を眺めていた。

 手紙が完全に灰になった時、突然暖炉が光り冥界の扉が開かれ何者かがミゼルディア目掛けて飛び出してきた。


「おねーちゃーん!」


 冥界の扉から飛び出してきたのは薄紫色のショートヘアの少女でミゼルディアのことをお姉ちゃんと呼んだ。


「ア、アルちゃん!?」


 ミゼルディアにアルちゃんと呼ばれた少女はミゼルディアの腕に抱き着いていた。


「まさかミゼに妹が居ただなんて」

「雰囲気がどことなくミゼに似てるな。さすが姉妹だな」

「とりあえずミゼから話を聞きませんか?」


 五人は暖炉の前にある机を囲んだ。


「それで、その子はミゼの妹でいいんだよね」


 ユウはいまだにミゼルディアの腕に抱き着いている少女をちらりと見た。


「はい、私の妹で名前はアルテナ・カーナといいます」

「あー、だからアルちゃんなのか」

「気安く呼ばないで!アルちゃんって呼んでいいのはお姉ちゃんだけなんだから!」


 アルテナは噛みつくようにそう言った。


「じゃあ、アルテナはどうしてここへ来たの?」

「それはお姉ちゃんを家へ連れ帰るため」

「でもアルちゃんも知ってるでしょ私が家から追い出されたこと」

「うっ、それは知ってるけど・・・」


 ミゼルディアからそう言われるとアルテナは目をそらしうつむいてしまった。


「そういえばどうしてミゼは元居た家から追い出されたの?」

「それは私が働かず一日中部屋に引きこもって生活していたら呆れた両親に勘当されて家から追い出されちゃったんですよ」


 そうミゼルディアが話しているとアルテナは何か言いたいことを押し殺すようにミゼルディアの腕を強く抱きしめた。


「それはそうとして私としてもあの家に帰るつもりなんてないんですけどね」


 ミゼルディアは笑いながらそう言った。


「だから私は家には二度と帰らない。ごめんねアルちゃん」

「そうなんだ、そんなにこの家がいいんだ・・・まぁでも場所は覚えたしいつでも来れるか」

「ん?アルちゃん何か言った?」

「うんん、なにも。ごめんねお姉ちゃん、無理に連れ帰ろうとして。気が向いたらいつでも帰ってきていいからね。じゃあ寂しいけど私は帰るね」


 そう言ってアルテナは冥界の扉を開き帰っていった。


「一体なんだったんだ」


 その日の晩いつものように四人で夕食を食べ風呂に入った後ユウが暖炉の前に行くとソファーに座って窓の外をじっと見つめるミゼルディアがいた。


「ミゼ、どうかした?ずっと外を見て」

「いやぁ、ちょっと考え事を。あ、お風呂入ってきますね」


 ミゼルディアは慌てて風呂の方へ走っていった。しばらくして湯上り姿のミゼルディアが戻ってきた。


「ユウさん、まだいてくれたんですね」

「何か話したいことがありそうだったから。まぁ、座りなよ」


 ミゼルディアはユウの隣に座り一息ついて話を始めた。


「実は妹と一緒に家に帰らなかったことをちょっとだけ後悔してるんです」

「そうなの?あんなに帰りたがらなかったのに」

「帰りたくないのは事実なんですけど妹を一人にするのは嫌なんです。妹はとっても優しいんですよ。私が部屋に引きこもってる時も毎日話しかけに来てくれて私の心の支えでした」

「そっか、実はわたしも引きこもりだったからよくわかるよ」


 ユウは優しく語りかけてミゼルディアにホットミルクを渡した。


「ユウさんもだったんですか。やっぱり何かきっかけが」

「うん。ちょっと色々あってね。ミゼはどうなの」

「私は周りが妹と比べられる劣等感からこもりがちになりましたね。あっ、もちろん妹のことは好きですよ。でも妹は私にできないことをいとも簡単にこなすんです。勉強もできますし誰よりも多く魂を送っているんです。それに比べて私は魂を数回程度しか送ったことがないんです」

「それはどうして」


 ユウが聞くとミゼルディアはホットミルクを一口飲んで答えた。


「それは私に魂を冥界や黄泉へと送る覚悟が足りなかったからです。死神は人間や動物が死ぬ間際に現れ死を看取り冥界や黄泉に送るのですが事故や殺人で息を引き取った人間や動物の魂からは悲痛な叫びや嘆きが聞こえてきて私は何度もその魂を送らず逃げてばかりいたんですよ。その話が広まってから私は妹と比べられるようになったんです。情けない話ですよね、死神の癖にろくに魂を送れないなんて」


 ミゼルディアは眼に涙を浮かべながら話した。そんなミゼルディアをユウは抱きしめ頭をなでながらミゼルディアに声をかけた。


「ミゼは優しいんだね。ちゃんと魂に耳を傾けて送ってあげようって思ってるからこそ、そういった魂を怖がれるんだと思う。周りがミゼのことをどう言おうがわたしはミゼの味方だよ。いや、わたしだけじゃないルイナやリリィ、ほかにもミゼの優しさを知ってる人はみんな味方だから。時間をかけて悲しい思いをしてこの世を去った魂たちを送って行こう」


 ユウの優しさに包まれたミゼルディアは眼のふちにたまっていた涙が零れ落ちていた。

 そしてしばらくして―――


「どう、落ち着いた?」

「はい、おかげでスッキリしました」

「それはよかった。じゃあもう夜も遅いしそろそろ寝よっか」


 ひとしきり涙を流したミゼルディアはホットミルクを飲み干し自室へ戻っていった。

 そして誰もが寝静まったころミゼルディアの部屋に冥界の扉が突然開かれ寝ていたミゼルディアはそのまま連れていかれてしまった。


「ごめんねお姉ちゃん。でもこれでまた一緒に・・・・・」


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