第24話 冒険者ライム
「ユウさん!私ついに冒険者になりましたよ!」
あたたかな陽の光が差し込むこのテフリカの街のカフェでギルドハウスの受付嬢ライムとお茶を飲んでいると突然ライムは冒険者しか持つことができないカードをユウに見せた。
「おぉ、おめでとう!最近試験のために色々頑張ってたもんね」
基本、冒険者になるには一定のステータスや実績があればだれでもすぐなれるのだが、一定のステータス未満の人やほかの職業からの転身、副業の場合冒険者協会から出される試験をクリアしないといけないのである。今回ライムはギルドの受付嬢の傍ら冒険者になるために試験を受けていたのだ。そしてその試験のためにユウはライムに剣と魔法の両方を教えていた。
「まぁ、ユウさんの指導のおかげですよ」
ライムは照れくさそうにそう言った。
「というわけでユウさん!今から一緒にこのクエスト受けませんか?」
そう言ってライムが取り出したのは一枚のクエスト書だった。
「ライネアンの森で15体の魔獣の討伐・・・できるの?」
「もちろんです!私も冒険者ですから」
ライムは胸を張って自信ありげにそう答えた。
「とりあえずケーキ食べよっか」
「はい!」
二人は運ばれてきたケーキを食べ、街から離れたライネアンの森に移動した。
「そういえばなんでこの森にはライネアンって名前が入ってるの?」
「それはですね、この森に神獣フェンリルであるライネアン様が住んでいるという伝説がありましてそこからライネアンの森と名前が付いたようですよ」
「へぇーフェンリルか、会ってみたいなぁ」
そんな会話をしながら森を進んでいくと魔獣が姿を現した。
「ついに来ましたね・・・」
ライムは剣を構えおりゃ!とひと振りで倒して見せた。
「どうですかユウさん」
「うん、ちゃんと倒しきれてるし最初のころと比べてとっても良くなってるよ」
「あぁ、本当に最初のころはひどかったですもんね」
それはライムが初めて実戦練習をしていた時の事。ライムの攻撃は魔獣に届かずいつも地面を叩き魔獣に追いかけられる日々を送っていた。そんなライムが今は剣を振り魔獣を倒すほどに成長したのだ。
「次は魔法を使って倒してみようか」
二人は次の魔獣を求め、さらに森の奥へと進んだ。
「ライム、あそこに魔獣の群れだよ」
「おぉ、たくさんいますね。良い的になりそうです」
ライムは魔獣の群れに右手をかざし魔力を込め始めた。そして右手に込められた魔力は炎の玉へ姿を変え魔物の群れへ放たれた。炎の球は見事魔物の群れに命中した。
「やってやりましたよユウさん!」
「さすがだねって言いたいけど、まだ一体倒し損ねてるよ」
そう言ってユウは大きな杖を取り出しライムの倒し損ねた魔獣に炎の玉を当てて倒した。
「やっぱり魔力の調整が難しいです。弱いと倒しきれないし強いと反動で動けなくなるし・・・ってあれ、ユウさんあそこに何か倒れてませんか」
ライムが指さした先には一匹の白色の狼が倒れていた。
「ひどい傷、さっきの魔獣たちにやられたんだろね」
「ユウさんこの子の何とかなりませんか」
「分かった、やってみるよ。ジョブチェンジ!【薬師】」
ユウは【薬師】にジョブチェンジをし傷薬を作るために薬草を探し始めた。
しばらくたって薬草を持ったユウはさっそく傷薬を作り白い狼に飲ませた。
すると白い狼の体の傷がすべて塞がった。だが白い狼は立ち上がることなくただ傷が治っただけで動こうとしなかった。
「どうしたんでしょうか、眼も開いてるし呼吸もしてるまだどこか悪いんでしょうか」
「うーん薬の調合に問題はなかったと思うんだけど・・・」
そう言いながら白い狼を見ていると『ぐ~』と、白い狼のお腹が鳴った。二人は顔を見合わせ笑った。
「なんだ、お腹が空いてただけだったんだ」
「それじゃあ、そこの魔獣を解体して肉を焼こうか」
二人は魔獣を解体し魔石を取り出し肉を焼き白い狼に食べさせた。
すると白い狼は立って動けるまでに回復した。
「すっかり元気になりましたね」
「こんなに動けるならもう大丈夫でしょ。残りの魔獣を倒しに行こうか」
そう言って立ち上がった瞬間白い狼が何かを察知しライムを咥えてその場から少し離れた。その瞬間ライムのいた場所の後ろの茂みから二体の魔獣と一回り大きい親分のような魔獣が飛び出してきた。
「び、びっくりした。ありがとう狼さん」
「まさか、そっちから来てくれるなんてね。ライム、今回はわたしも手伝うよ。あの大きいのはわたしが相手しとくから」
「分かりました」
ライムは剣と魔法を使い二体の魔獣と戦い始めた。その様子を見ていた白い狼もライムに加勢した。白い狼は不思議なことに魔法が使えライムをアシストするように戦っていた。
ユウはそれを横目に大型の魔獣を一撃で葬り去った。
「・・・倒しましたよ・・・ユウさん・・・」
ライムは息を切らしながらこちらに振り向いた。
「お疲れ様ライム、それにしてもこの白い狼は一体何なんだろうね」
「私を助けてくれましたし敵ではないと思いますけど」
そんな会話をしていると白い狼は時々二人の方を振り返りながら森の奥へと続く道を歩き始めた。
「ついてきてほしいのかな」
二人は白い狼の後ろを歩きついていくと大きな湖にたどり着いた。そこはまるで桃源郷のような場所で小鳥がさえずり木々が風で揺らめいていた。
そんな光景に見とれているといつの間にか白い狼は姿を消していた。
「あれ、白い狼どこ行ったんだろう」
「さっきまでそこにいたはずですけど」
「こっちじゃ、小娘ら」
声がする方を向くとさっきの白い狼が石の上に座っていた。
「ユウさん、狼が、白い狼が喋ってますよ!」
喋っていた白い狼にライムは驚いていたがユウはそれ程驚いてはいなかった。
「そっちの小娘はわしが喋っても驚かないのだな」
「まぁ、うちに喋る猫がいるから」
「そうか、だがこっちの姿の方が話はしやすいか」
白い狼はくるりと一回転して狼の耳とふわふわな尻尾が生えた女の人の姿となった。
「狼が人に・・・」
「面白い反応をするな小娘よ」
「ところであなたの名前は?」
「わしの名はライネアン、フェンリルじゃ」
白い狼はライネアンと名乗った。
「此度はわしを助けてくれた礼のためにここへ連れてきたが、この小娘が気になってのぉ」
「私ですか?」
ライムは突然ライネアンに肩を持たれ驚いていた。
「お主は魔法の才がある。今はまだすべてを出し切れていないがいつの日か立派な魔導士になるだろう。どうだ、毎日ここへ来て修業してみんか?」
「お誘いはうれしいのですがお断りいたします。私はただの冒険はギルドの受付嬢ですので毎日ここへは来れないんです」
ライムはライネアンの誘いを断ったがライネアンはまだ諦めてはいなかった。
「なら、わしがお主の家へ毎日行ってやろう」
「な、なんでそうなるんですか」
「このわしがお主の魔法の才を認めたんじゃぞ!三日に一回、いや二日に一回わしと修行せんか」
ライネアンはライムの肩を揺らしながらそう言った。
「ユウさん、助けてくださいよ~」
「もう、一緒に住めば二人とも」
ユウのその一言で『その手があった』と言わんばかりにライネアンがライムを説得し始めた。
「どうじゃ、わしと暮らせば家事のすべてはわしがやろう。お主に何かあればすぐに駆け付け助けてやる。どうだ良いとは思わんか」
「うーん確かにいい条件ですけど本当に私でいいんですか。家も普通くらいの大きさしかありませんよ」
「かまわん。わしがお主が良いと決めたのじゃ。あとはお主の返答次第じゃ」
そう言うとライネアンはライムから少し離れた。ライムは困ったようにユウの方をチラチラ見たがユウは何も言わずただニコニコしていた。
「本当に私でいいのならこれからよろしくお願いします」
「うむ、これから世話になるぞライムよ」
そうして神獣フェンリルのライネアンがこの森を出てライムとマトラ村で暮らし始めた。
その翌日。
「ご主人様、村に神獣フェンリルがいるんですがこれは一体」
「あぁ、あれは森で一人になるのが寂しくてライムと暮らしているライネアンだよ」
そこにはライネアンに村を楽しそうに案内するライムの姿があった。




