第20話 女神の住む山
翌日、リコの家に泊まったユウたちはクラーケンの影響で活性化した魔獣が犇めく田んぼの近くの山へ来ていた。
「これでおしまいかな」
「意外と少なかったな」
ユウたちは付近に住む住人の依頼で活性化した魔獣の退治をしていた。
「ありがとうお嬢さんたち。これで米が育つよ」
依頼人のおじいさんがそう言いながらお茶を持ってきてくれた。
「そういえばこの辺りに魔獣を寄せ付けない結界ってないんですか?」
「昔は魔獣を寄せ付けない結界があそこの集落の中心から広がとったが今はもう無くなってしもうてなぁ。結界を張りなおせる人がこの集落にはおらんのじゃ」
ユウの問いにおじいさんはさみし気に答えた。
「・・・その集落に行こう。私なら結界が張れる」
どうやら結界が張れるらしいリコの提案で集落の中心へ移動した。
そこには確かに結界を張るための魔法陣の跡がかすれてはいるが残っていた。
「・・・ちょっと時間はかかるけどこれくらいなら治せる」
「じゃあ、待ってる間私たちは何しようか」
「・・・なら、あそこの一番高い山に行ってみて。・・・あなた達に会ってみたいというお方がいる」
リコが指さしたのはこの集落の東に見える山で、ほかの山の高さと比べると一回りほど高い山になっている。
「会いたいお方?」
「・・・行けば分かる」
リコにそう言われユウたちは山を登り始めた。
「ねぇ・・・まだ・・・頂上に・・・つかないの?・・・」
「もうすぐ中腹なのでそこで休憩にしましょうか」
「お願い・・・わたし・・・もう疲れて歩けない・・・」
ミゼルディアのありがたい提案でユウたちは山の中腹で休憩をとった。
「家は山の上にあるのにこの程度で音を上げたのか、ユウ」
「実は最近、村に行くのにも箒を使って空を飛んでるから・・・」
「この山でも飛べたら楽だったんですけどね」
この山ではなぜか魔法が使えず魔族であるルイナたちは飛行能力やワープゲートの設置などの能力が使えなくなっているのだ。
ユウたちは休憩をとった後再び山頂を目指して山を登った。
「やっと、頂上に着いたー!」
「結構疲れましたねぇ」
「まぁ、途中で巨大なイノシシに追われましたからね」
「魔剣が取り出せれば生肉にできたのにな」
頂上に着いたユウたちは木の近くに座り山頂からの景色を眺めていた。
「ここからの眺めは絶景だね」
「にしてもご主人様に会いたい方って誰なんでしょうね」
「見た感じ私たち以外誰もいないな」
「もしかして今、山を登ってきてるんでしょうか」
「私はずっとここにいるわよ」
そんな、なんてことのない会話をしているとどこからか聞き覚えのない女性の声がした。
「今どこから声がした?」
「あそこの碑石からでしょうか」
ユウは目の前にある碑石の方へ歩いて行った。
すると、突然碑石の前に天から光が差し込み一人の女神のような人が舞い降りてきた。
「あなたがリコちゃんの言っていた人間の子ね」
「あなたは・・・誰?」
ユウは恐る恐る聞いてみた。
「私はマリネア。豊穣の神様よ。あなたは確か・・・」
「ユウです」
「そうそう、ユウちゃん!魔族と共存する不思議な子」
マリネアはユウを見つめながらそう言った。
「ところでリコちゃんは来てないの?」
「今は下の集落で結界を張ってくれてます」
「そうなの、リコちゃんにも会いたかったから少し残念だわ」
マリネアは少しため息をついた後再びユウの方を向いた。
「まぁ、今日はユウちゃんにお礼がしたかったから」
「お礼?」
「そう、クラーケンを倒して活性化した魔獣も倒してくれたからそのお礼になんでも一つ願いを叶えてあげる」
「本当に何でもいいの?」
「えぇ、何でもよ」
ユウはしばらく考えてこう答えた。
「お米を一袋ください!できれば新米をください」
「そんなのでいいの?」
マリネアはユウの目の前にどこからか取り出した新米の入った袋をおいた。
「はい!ありがとうございます。これで明日からお米が食べられる・・・」
目を輝かせながらユウは新米の入った袋を抱きしめていた。
「あ、でも今はお米が市場に流れてないから気軽に買えないのか、大事に食べないと」
「だったら私が何とかしよう」
しょんぼりしていたユウを見たマリネアは胸をたたいてそう言った。
「でも願いごとは一つだけって」
「これは豊穣の神としての仕事のうちの一つだからユウちゃんは気にしなくていいんだよ」
そう言いながらマリネアは力を溜めて地面に両手をつくと緑色の優しい光が地面を伝って田畑のある場所へ流れていった。
「これで数日のうちにまた市場にたくさんの食べ物が並ぶと思うよ」
「これが神様の力・・・」
「・・・すごいでしょ、マリネアは」
ユウが唖然としていると後ろの方から聞き覚えのある声がした」
「あ!リコちゃん、会いたかったわ」
「・・・お邪魔してますマリネア様。此度は、そちらのユウその一行を連れ帰りに来た所存です」
「あらそう、もう行っちゃうのね。ユウちゃんまた遊びにいらっしゃい」
「はい、またいつか必ず遊びに行きます。お米ありがとうございました」
そうしてユウたちは山を下りリコが結界を張った集落を横目に街へ戻った。
「ご主人様、そろそろ王都行きの船が出ますよ」
リリィたちは港に止まる船に乗りユウのことを待っていた。
「・・・ユウ、これ上げる」
「なにこれ、ペンダント?」
「・・・そう、これがあればいつでもマリネア様に会うことができる」
「ありがとうリコ!また会おうね」
「・・・うん。必ずまた」
ユウはリコからペンダントを受け取り船に乗った。
程なくして船は王都へ向けて動き出した。ユウは船からリコに向けて大きく手を振った。
帰りの船は行きとは違いとても静かだった。四人が疲れて寝ている間に船は王都へ到着した。
家に着いたユウはさっそくアズナドの魚市場で買った魚を焼いて土鍋で炊いた米と一緒に食べた。
ユウは懐かしさをかみしめながら食べルイナたちは米と魚の相性の良さを絶賛していた。




