第17話 精霊とかき氷
「暑い・・・」
王都から帰ってから三日が経った。
あれから毎日ルイナたちがいつの間にか一緒の布団の中にいることが増えた。両腕にはルイナとミゼルディアがしがみついていて足元には猫になっているリリィが寝ている。寝ている時だけではない、外に出る時も必ず誰か一人がついてくるようになった。まぁ、しばらくすればおとなしくなるだろう。
「そろそろ離れてくれないかな、そろそろ朝ごはんを作りたいんだけど」
ユウがそう言うとルイナたちはおとなしくユウから離れてくれた。
リリィと朝食を作り四人で一緒に食べいつものようにルイナとミゼルディアが外で魔剣と鎌を交えているのを眺めていると窓の隙間から心地よい風が吹き込んできた。
「涼しいねぇ」
「今日みたいに暑い日にはちょうどいいですね」
リリィと談笑しているといつの間にかルイナとミゼルディアが帰ってきた。二人はいつも通り泥だらけで帰ってきたのでお風呂に入ってもらった。二人がお風呂から上がってくるのを待っていると外から誰かが扉をノックした音が聞こえた。
「はーい、今行きまーす」
ユウが扉を開けると心地良い風とほのかに花の香りと共に一人のお姉さんが立っていた。
「初めましてユウ様、私はこの山を守護する精霊のヴィニアと申します。本日は神フロラス様の命を受けあいさつに参りました」
精霊ヴァニアは行儀よくお辞儀をした。
(フロラスってわたしをこの世界に送ってくれた人?だよね。これはちょっとこの精霊から話を聞かないと)
ユウはヴァニアを家に入れた。
「改めまして私は精霊のヴァニアと申します。本日はユウ様に挨拶とご報告をするため参りました」
「報告?」
ヴァニアはリリィの淹れたお茶を一口飲み話を続けた。
「報告といっても事後報告になりますが、ユウ様たちの活動圏内であるこの山を下った先にあるマトラ村、ルイナ様のお屋敷のある森そして、ご自宅のあるこの山に精霊結界を張らせていただきました」
精霊結界はその名の通り精霊にしか張れない結界でありその結界が張られた範囲は精霊の守護下となる。ヴァニアが言うには精霊の守護下になった場所では作物が良く育つようになったり災害が起こらなくなったり結界の外からの攻撃を防ぐらしい。結界の中では攻撃系の魔法は使えなくなり剣や弓で人間を攻撃しようとすると攻撃者に拘束魔法が発動するようになっているらしい。
「以上が精霊結界の効果の一部になります」
「この効果量で一部なんだ・・・」
他の効果がきになるがユウはぐっと堪え別の質問をすることにした。
「神フロラスについて教えてくれる?」
「私の話せる範囲ならお答えいたします」
「お願い」
「承知いたしました。では神フロラス様についてですが厳密には神様の中でも創造の神としてその地位に君臨しております」
創造の神フロラス、王都を中心に信仰されている神でありとあらゆる物を創り出す事ができる。この世界にある様々な物、例えば花や扉、レンガに金などを創ることができる。だがいくら創造の神だからと言っても生命までは生み出せないみたいだ。
フロラスの性格は気まぐれで何を創り出すかは誰にも分からないという。だがそんな気まぐれなフロラスでも毎日必ずやっていることがある。それはフロラスの住んでいる特別な空間に咲く花の手入れをすることだという。この空間はフロラスが創ったのではなく別の神が創った空間らしい。
「これが私の話せる範囲のフロラス様のお話です」
「もう一つだけ質問なんだけどこの世界に何人神様がいるの」
「フロラス様を含め五人います。そして神様の身に何かがあった時のために神様候補としてさらに五人おります」
「神様だけじゃなくて神様候補までいるんだ」
神様は各国に一人ずついて王都プラティアに創造の神フロラスと一人の神様候補がいる。ほかにも北にある国コルドアに空間を司る神クロリア、東にある国アズナドに豊穣の神マリネア、南にある国サスミナに幸運の神リサナ、西にある国フェドルトに大地の神デュカートが存在している。そして年に一回神様たちは天空にある島カナルナ・リベルに集まるらしい。そこで何が行われているのかは神様とその従者以外誰にもわからないという。
ヴァニアがフロラスとほかの神様について話し終えたところでルイナとミゼルディアがお風呂から上がってきた。
「ユウ、今日のおやつは・・・誰だ?客か」
ルイナはヴァニアを警戒するかのようにミゼルディアの後ろに隠れた。
「精霊のヴァニアさんだよ。おやつは今から作るからちょっと待ってて。ヴァニアさんもよかったら一緒に食べませんか?」
「よろしいのですか。ではお言葉に甘えてご一緒させていただきます」
ユウはキッチンへ向かった。これから作るおやつは暑い日にぴったりなかき氷だ。
棚の中から昨日作った手回しかき氷器を取り出しその中に魔法で生み出した氷の塊をセットした。
ユウは手回しかき氷器のハンドルを持ち、回してゴリゴリと氷を削っていった。
削った氷がガラスの器にある程度積もったらその上に氷砂糖で漬けておいたイチゴのシロップをかけて完成だ。
「おぉ、おいしそうだな」
ルイナは目を輝かせながらスプーンを持った。
「ゆっくり食べてね、じゃないと・・・」
そうユウが忠告しようとし時にはもう遅かった。
「んぁ~~~頭がキーンとする!」
勢いよくかき氷を食べたルイナがこめかみを抑えながら悶えていた。それを見たリリィたちはかき氷を見て怖がっていた
「三人もこうなりたくなかったらゆっくり食べてね。大丈夫すぐには解けない氷だから」
「分かりました。いただきます!」
思い切ってリリィがかき氷を口に運んだ。
「おいしいです!冷たくてシャリシャリしてます~」
尻尾をピンと立ておいしそうに食べるリリィを見てヴァニアとミゼルディアもかき氷を口にした。
「氷を食べるなんて初めてでとても新鮮です」
「氷ってこんなにおいしくなるんですね」
三人とも気に入ってくれたみたいでよかった。ルイナはこめかみを抑えながらもかき氷を食べていた。
それからしばらくヴァニアと雑談し穏やかなひと時を過ごした。ルイナも最初こそヴァニアのことを警戒していたが今はすっかり心を開いている。
「そろそろお暇させていただきます。おいしいお茶とかき氷ごちそうさまでした」
「もう帰っちゃうんだ、これから晩御飯を作ろうと思ったんだけどな」
「すみません、フロラス様に今日の報告をしなければならないので」
「そっか、またいつでも遊びに来てね」
「はい、ありがとうございます!」
そう言ってヴァニアは帰っていった。
それからたまにヴァニアが家に遊びに来るようになりまた一つユウの家がにぎやかになった。




